社員の個人的な「こうしたい」を、会社全体の創造性につなげるデザインの可能性――ヤマハ発動機 執行役員・クリエイティブ本部長木下拓也氏インタビュー

デザインをビジネスの各シーンに拡張する存在として、「CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)」の役割に注目してきたが、これからは、現場でその可能性を広げようと取り組むリーダーに話を聞いていく。
ヤマハ発動機では、社員一人一人の課題観によってさまざまな事業を生み出されてきた。そうした個々の主体性を、会社全体の創造性として競争優位につなげる取り組みが始まっている。同社執行役員・クリエイティブ本部長の木下拓也氏に話を聞いた。

「感動創造企業」という言葉を掲げるだけでは
何も伝わらない

勝沼 ビジネスにおけるデザインの役割が広がっていることは、現場で実感していますが、デザイン活用の在り方は企業によって異なると思います。ヤマハ発動機ではどうでしょうか。

木下 ヤマハ発動機の創業は1955年ですが、2012年にデザイン本部が立ち上がるまで、プロダクトデザインは一貫して外部委託してきました。自社製品のデザインを全て外注するというのは、製造業としてはかなり独特なスタイルです。結果、ものづくりに関するデザインの自立性が保たれてきた。そこにヤマハ発動機におけるデザインの取り組みの独自性があるといえると思います。

 20年になって、デザイン本部の機能を吸収する形でクリエイティブ本部を設立しました。クリエイティブ本部には、「コーポレートブランディング」「製品デザイン」「イノベーションデザイン」の三つの機能が集約されています。その本部長に私が就任したのは22年のことです。

 2025年から始まる新しい中期経営計画において、クリエイティブ本部には「会社全体の創造性を上げる」というミッションを課しています。そのミッションを果たすために、現在三つの具体的な取り組みを進めています。「創造性の発揮」「事業競争力の向上」「ブランド価値の向上」です。

 1つ目の「創造性の発揮」は、クリエイティブ本部に所属するデザイナーが社内の各部門の活動に積極的に関与していく取り組みです。2つ目の「事業競争力の向上」では、事業戦略とデザイン戦略のシナジーによって競争力を強化することを目指しています。3つ目の「ブランド価値の向上」の目標は、ヤマハ発動機の「キャラクター」をつくっていくことです。

勝沼 「キャラクター」をつくるというのは、企業の「らしさ」を形にしていくようなものでしょうか。

木下 われわれは自らを「感動創造企業」と言っています。しかし「感動」とは何かを定義し、それを「創造」するとはどういう行為かを示さないと、誰にも何も伝わらないわけです。

 そこで、感動を創造するということを、具体的な取り組みや経験で伝えていく必要があると思って始めたのが、「NEXT KANDO ACTIONS」というプロジェクトです。

 これは「感動」という言葉に結び付く社員の活動を投稿してもらったり、体験を取材したりしてコンテンツ化することを中心とした活動です。コンテンツが集まったらそれをストーリー化して、ステークホルダー視点で共感できるメッセージに変換します。これがヤマハ発動機のキャラクターを示すことであり、「ブランド価値の向上」という目標につながると思っています。

社員の個人的な「こうしたい」を、会社全体の創造性につなげるデザインの可能性――ヤマハ発動機 執行役員・クリエイティブ本部長木下拓也氏インタビューPhoto by YUMIKO ASAKURA