企業価値を高めるためには、デザインの視点が欠かせない――。そう指摘されるようになって久しいが、一般的なビジネスパーソンにとって、まだまだデザインを巡る議論は分かりづらい、というのが正直なところではないだろうか。2014年から7年間にわたってソニークリエイティブセンターのセンター長を務め、現在はデザイン経営に取り組む企業にデザインアドバイザーとして関わる長谷川豊氏に、経営に資するデザインの実際と、キーパーソンとなるべきCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)の役割を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美、撮影/まくらあさみ)
社内の困りごとの解決に
乗り出すデザイン組織
――企業活動においてデザインの役割が拡張しているといわれます。長谷川さんの実感はいかがですか。
広がっていることは間違いないです。特に企業内(インハウス)のデザイン組織は、製品やサービスを色・形でデザインするだけでなく、商品開発や事業開発に関わるのが当たり前になっています。さらに特徴的な動きとしては、要件が複雑に絡み合うプロジェクトに駆り出されることも増えています。デザインとは、突き詰めれば「点と点を結ぶ」インテグレーションです。だからデザイナーが異なるリソースを結び合わせることで新しいものを生み出す、さまざまな困りごとを解決する「社内コンサル」のような動きをする、こういった動きにつながるわけです。特にインハウスのデザイン組織はその会社を熟知していますから役割が広がりやすいといえます。
――役割の広がりという点では、ビジョンやパーパスを策定する役割を担うことも多く見られます。
デザイナーなら誰でもできるかというとそうではありません。ただ、適性がある人材が多いといえるでしょう。というのも、プロダクトでもサービスでも、何かをデザインする上で、いきなり色や形から始めるわけではなく、軸となるコンセプトが必要なんです。
コンセプトを作る上では、この製品が自社にとってどういう意味のあるものかを考えます。もちろんそれをそのまま表現しても顧客は付いてきません。どんな人にどう伝えていけばいいのかというストーリー作りが必要になってきます。色や形をどうするかという造形のプロセスはそうしたストーリーができて初めて具体的に進むわけです。
対象に含まれる要素からストーリーを導き出し、的確なディレクションでアウトプットしていく――というプロセスは、確かにビジョン作りと重なります。それは、デザインの対象が「事業」や「企業」のような大きなものになっても基本的には同じだと思います。