チョコレート写真はイメージです Photo:PIXTA

チョコレートを使ったスイーツがなかったら、それは寂しすぎる世界だろう。実際、5500年前までカカオは絶滅の危機に瀕していたのだから、きわめてリアルな話だ。それを救ったのは、ジャングルの奥地での、霊長類とカカオとの偶然の出会いだった。※本稿は、ビル・フランソワ著、河合隼雄訳、山本知子訳『ライ麦はもともと小麦に間違えられた雑草だった 食材と人類のウィンウィンな関係』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

巨大なカカオの実を食べて
種子を拡散してくれるのは誰?

 このデザートは存在しなかったはずだった。

 いいタイミングに焼けるように――といっても半焼けなのだが――食事の初めに注文したとしても、本来ならこのケーキは僕たちのテーブルには存在しなかったはずだ。いや、誰のテーブルにものらなかっただろう。もし通常の経過をたどっていたなら、チョコレートはフォンダンショコラが発明される1万5000年ほど前に姿を消していたのだから。

 カカオの実の形がそれを物語っている。ダークチョコレートの包装紙の写真でおなじみのカカオの実。ラグビーボールのような楕円形で、赤かピンクか黄色という鮮やかな色が特徴のこの実は、500グラム以上の重さがある。厚い殻に覆われていて、その種子、かの有名なチョコレート豆はインゲンマメぐらいの大きさだ。

 いったいどんな動物が、そんな実を丸飲みして種子を撒き散らすことができるのだろう?カカオの木が生えるのがアフリカ南部なら、思い浮かぶのはゾウやカバだろう。しかし、この低木の原産地は、氷河期が終わって以来、バクより大きな野生動物が足を踏み入れることのなかった一帯、そう、アマゾンだ。つまりその時代以降、カカオの木は種子を拡散させることができず、生き残ることはできなかったはずなのだ。

巨大な動物たちと
カカオの幸せな時代

 氷河期以前はすべてが違った。カカオの木も豊かな生活を送っていた。恐竜が絶滅して間もない新生代に出現し、いまとはまったく異なる動物相のなかで繁殖した。当時のラテンアメリカには、ラテン語でキュビエロニウス(Cuvieronius)、エレモテリウム(Eremo-therium)、グリプトドン(Glyptodon)(キュビエロニウスはゾウ、エレモテリウムはナマケモノ、グリプトドンはアルマジロに似た哺乳類)と呼ばれる動物たちが住んでいた。大陸には巨大動物たち、想像できないような大きさの哺乳類の鳴き声が響きわたっていた。首、鼻、角が突き出ているこうした巨大動物の群れと同盟を結んだ植物たちは、その環境に適応し、こうした動物のサイズに合った果実を提供した。