チョコレートをミクロで見ると
まるで岩石のような構造
チョコレートは火山の溶岩のように泡立つ。菓子職人の目線に立つと、厨房は地球の中心部に似ている。部門シェフは、火山学者のように正確に混合物の温度をモニターする。まるで火山の誕生を見ているかのように。
お菓子づくりは他の料理とは違う。食材の風味を変えるのではなく、構造を変えるのだ。無機的で、ほとんど抽象的でもある。自然から完全に切り離されているようにも見える。魚の内臓を取り除いたり、ニンジンの土を落としたりするときのように、植物や動物を扱っているという感覚はない。自然に反して精製された、ほとんど鉱物のような素材を調合する。粉砂糖、小麦粉、卵白……。現代では僕らがそれをまるで純粋な食材と思ってしまっているようなこうした製品は、地球に関して別の視点に立たせてくれる。お菓子づくりは世界をつくりだすことなのだから。
ケーキが岩や山にこれほどまでによく似ているのは、まったく同じ方法で形成されるからだ。菓子店のオーブンの中で、材料は鉱物の地質学的現象と同じ物理的変化を遂げる。
チョコレートは、それだけで地球のマントルの模型でもある。ミクロで見ると、岩石のような構造をしている。その成分は石英でも雲母でもなく、脂肪酸だ。鍋という火山に入っているチョコレートはまるで溶岩。それはまた無秩序な混合物といえ、そこでは高温と木べらによる攪拌によって脂肪酸が絶えず揺れている。ところが溶岩は、火山の斜面に沿って冷やされると固まり、結晶化する。
キッチンの作業台では、チョコレートの脂肪酸が同じプロセスで結晶化する。鉱物あるいは脂肪酸が集まり、互いに対して形を成し、それがぴったりはまって秩序立つた規則正しい構造となり、そこから結晶が生まれる。岩の結晶、あるいはチョコレートの結晶である。
チョコレートが固形化するには
ココアバターの結晶が必要
脂肪酸は、その形状から全部で6種類の配列が可能だ。つまり6種類の結晶が可能で、それぞれチョコレートの質、硬さ、溶ける温度が異なる。きれいに割れ、口の中では溶けるが手では溶けない板チョコをつくりたいのであれば、6種類のうち上から2番目に硬い「V型」の結晶でなければならない。