正直に不調を訴えないビジネスパーソン
ストレスチェックに意味はあるのか

 厚生労働省が実施し、2024年に公表した「令和5年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、過去1年間でメンタルヘルス不調により1カ月以上休業、または退職した労働者がいた企業は、大企業では91.2%(令和4年は90.8%)に上る。全体では13.5%(令和4年は13.3%)とだいぶ割合は下がるが、これは大企業ほど対策が進んでおり、休業も認められやすいからだと考えられている。

「適応障害」や「うつ病」といった診断名がつくこれらメンタルヘルスの不調は、ストレスが原因で起きると考えられており、15年には、労働者のメンタルヘルスを守るために、質問紙や面談による「ストレスチェック」が企業に義務付けられた。

 だが、今年で10年目となるこのチェックにどれほどの意味があるのか、疑問視する声は特に現場の労働者から多く聞こえてくる。たとえば、筆者が以前取材した公立病院では、「正直に答えて産業医面談になっても面倒なだけで、労働条件の改善は期待できない」と多くの医師が考えていた。事実、ストレスチェックが義務化された15年以降も精神障害に係る労災申請件数は、右肩上がりで増加し続けている。

 この件について「ストレスチェックに意味がないわけではありません。問題は、実施の仕方だと思います。日本人は先のことを心配して、正直に回答しない傾向が強いのではないでしょうか」と、脳神経科学の研究者で島根大学医学部精神医学講座の大西新氏は解説する。