「なんと、精神疾患発症危険状態にある人は、尿中バイオピリンの濃度が正常な人の2倍ぐらいに達することがわかりました。この値は、特に精神疾患の一つである統合性失調症を発症すると4~7倍ぐらいに上昇します」
そして、バイオピリン濃度が2倍程度に上昇した時点で、不眠を改善させるなどの適切な医療介入を行なったところ、重篤なメンタルヘルスの病に移行した人は一人もいなかったという。精神疾患の予防に、ストレスマネージメントがいかに重要か得心がいく。
また海外で行われた臨床研究でも、非常にストレスレベルが高い職業に就いている人たちの尿バイオピリン濃度は、そうではない人たちの2倍程度と報告されている。
「さらに興味深いことに、この人たちに日本のストレスチェックと類似した質問紙による検査を行なったところ、バイオピリン検査の結果ときれいな相関関係を示したそうです」
日本人こそバイオピリン検査が
必要な理由
「一方日本では、バイオピリンの結果と質問紙による検査結果には、相関関係が示されません。これは、日本人に特有かもしれません(苦笑)」
つまり日本人の場合、質問紙による検査は、ストレスによって体の中で起きている変化を反映させることができないようなのだ。筆者も、A子さんや公立病院の医師たちの事例から考えて、大西氏の考察には頷かざるを得ない。やはり国民性を考えると、日本人には質問紙によるチェックよりも、バイオピリンによる客観的な測定のほうが向いているのではないだろうか。
バイオピリン検査はすでにメンタルストレスを測るサービスとして実用化されており、22年には、神奈川県の「ME-BYO BRAND(ミビョーブランド)」として認定済だ。ME-BYO BRANDは未病の見える化や未病の改善につながることが期待できる商品・サービスのうち、優れたものを認定する制度である。
メンタルヘルスの不調に陥る人の数は、糖尿病やがんをも上回る勢いで増加の一途を辿っており、もはやどこの職場でも「適応障害」「不眠症」「パニック障害」などで医療機関に通院している人は珍しくないはずだ。また、これらの他にもストレスに起因する疾患には「過敏性腸症候群」「円形脱毛症」「緊張型片頭痛」「慢性腰痛」「脳卒中」「心筋梗塞」「冠れん縮性狭心症」などさまざまなものがある。
バイオピリン検査が、地域や職場の健診に取り入れられ、メンタルヘルスの不調が表面化する前に、本人に悪いストレスの蓄積を自覚させ、職場の対応を促し、必要に応じて医療介入も受けられるようになれば、日本社会は今よりもっと明るくなるのではないだろうか。
(取材・文/医療ジャーナリスト 木原洋美、監修/島根大学医学部 精神医学講座 客員教授 博士(医学) 大西 新)