仲野 それまた漢方薬の不思議のひとつ。

若林 東洋医学的には、風邪というのは、からだのなかに何か悪いものが入っているわけだから、それを追い出すという考え方なんですね。だから、熱をもった風邪と寒をもった風邪だと、からだの反応が違ってくると考える。

 たとえば寒さをもった風邪だと、からだの表面近くのところに寒さが溜まっているとされる。寒気がするのはそれが原因です。それを内側から温めてあげて、汗をかかせれば追い出せるという原理です。

仲野 生姜湯とかスープとかが効く気がするのもそれですね。

若林 だから、麻黄湯や葛根湯は発汗作用がある。それだけでなく、なにかしら炎症の抑制をかけてもいるみたいですけど。

 風熱邪の場合は体内に入り込むと一気に熱を発生させて、喉などに炎症を起こさせます。風寒邪の場合は寒気という症状が発熱に先立つのですが、風熱邪の場合はそもそも人体は温かいものであるため、そういった前兆なしに激烈で急激な発熱をともないます。温める薬を、熱をもった風邪に使ったら、火に油を注ぐようなことになってしまう。ですので、強い熱冷ましの作用のある薬を使って炎症を抑えていきます。

仲野 なるほど。一旦、納得したということにします(笑)。

 風邪そのものに効く薬はないわけです。なので、西洋医学の場合、症状にもよるけど、よく処方されるのは対症療法的な薬です。解熱剤とか痛み止めとか。ただ、風邪と呼ぶかどうかは別として、新型コロナウイルス感染症に対する薬剤は開発されましたけど。

『かぜの科学 もっとも身近な病の生態』(ジェニファー・アッカーマン/早川書房)のなかに、風邪に対する民間療法についても紹介されています。当たり前ですけど、国によってかなり違うんですよね。たとえば、日本ではお風呂入ったらあかんって言いますけど、ヨーロッパではぬるめのお湯に入ることが推奨されてたりします。

 ほかにも日本では生姜湯とか飲みますよね。あれも漢方につながっているんでしょうか。似たような感じで、イギリスではチキンスープがいいとされている。そういう民間療法がたくさんあるけど、これがことごとく…

仲野・若林 効かない!(笑)

仲野 それがあまねく文献を集めた結果だと『かぜの科学』様はおっしゃってます。