江川卓の引退会見「禁断のツボ」発言に鍼灸師が怒ったワケ写真はイメージです Photo:PIXTA

漢方薬と並ぶ東洋医学を代表する治療法といえば鍼治療が挙げられる。1970年代には、鍼の刺激によって手術の痛みを軽減する「鍼麻酔」が大きな話題を呼んだ。鍼による治療や麻酔の効果について、生命科学の第一人者・仲野徹氏と東洋医学の専門家・若林理砂氏が意見を交わす。※本稿は、仲野徹、若林理砂『医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと』(左右社)の一部を抜粋・編集したものです。

1970年代に「鍼麻酔」が
大きな注目を浴びた理由

若林 いまでこそほとんど話題にならない鍼灸ですが、スポットライトを浴びた時期もありました。1970年代に「鍼麻酔」が注目されて、そのときに爆発的に認知されたんです。いまは完全に廃れていますが。

仲野 あぁ、人気ありましたね。テレビでよくやってました。

若林 1971年にニクソン大統領補佐官だったヘンリー・キッシンジャーが訪中した時期、同じく訪中していたニューヨーク・タイムズのジェームズ・レストンという有名な記者が急性虫垂炎になってしまい手術をしました。彼は術後の痛みや不快感を訴えて鍼灸治療を受けることになり、その後症状が改善したそうです。その体験談と、鍼麻酔について記事にしたところ、大反響になった。

 鍼麻酔については、普通の麻酔と鍼麻酔を併用するというかたちで使われていたそうです。普通の麻酔が少量になることで、回復がとても早くなるという記事だったようです。チャイニーズ・メディスンはすごいぞと。

仲野 それまではアメリカでは鍼治療は行なわれてなかったんですか?

若林 南北戦争の頃、日本でいうと江戸末期に、神経学者のミッチェルという方が鍼治療を勧めた記録があるようですね。1900年に出た医学の教科書に鍼治療が腰痛に効くとあるみたいですし。でも認知されたのは、この鍼麻酔の報道がきっかけですね。

仲野 虫垂炎の鍼麻酔って、どこにするんですか。

若林 手の合谷(図7)と下肢の足三里(図8)を使うのが標準的なのですけど、いろいろ部位があるようです。

図7 合谷同書より
図8 足三里同書より