何もしないまま年を取ると筋肉や体力は衰える一方だが、運動をすることで、筋肉や骨を鍛えてからだを動かしやすくするだけでなく、生活習慣病の改善やメンタルの健康にもつながるという。しかし、一体どのくらい運動をすれば良いのだろうか?私たちに必要とされている運動量や、運動で健康になるメカニズムを紹介する。※本稿は、石浦章一『70歳までに脳とからだを健康にする科学』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
体力には「からだを動かす力」と
「守る力」の2種類がある
体力の話をしましょう。体力がなぜ大事かというと、皆さんの寿命にも関わってくるからです。体力測定で例えば握力を測定すれば、それが体力かというとそうではありません。握力は、20歳のときも70歳のときも、そんなに変わりません。
そうかと思うと、目をつむって片足で立ってごらんなさいというと(これを閉眼片足立ちと言います)、20歳のときに100できるとすると、70歳になったら20くらいの時間しかできなくなります。体力の衰えは、この閉眼片足立ちを行うとよく分かります。腕立て伏せと同じくらい、年齢とともにできなくなるのです。
中、高、大学では握力、上体起こし(腹筋)、長座体前屈、反復横跳び、持久走(男1500メートル、女1000メートル)か20メートル往復持久走、50メートル走などを行い、その平均の値を体力と呼んでいます。
しかしこの体力というのは、からだを動かす体力ですね。それだけが体力ではありません。もう1つの体力もあって、からだを守る体力、すなわち、免疫力、病気にかからない体力もあります。ところが病気にかからない能力というのは、測定するのが難しいのです。この両方を併せて、長生きできるかどうかが決まります。だから長寿に必要なのは、運動能力だけではないのです。
筋肉はだんだん、老化とともに減少していきます。だから、筋肉が減ることをサルコペニア(加齢に伴う筋肉量の減少)と呼ぶのです。専門用語があるのは、誰にでも見られる現象だからです。筋肉が減ると筋力も低下します。
だから皆さんによく言うのですが、20歳のときに簡単に鉄棒にぶら下がって懸垂ができたのに、50歳になると懸垂がなかなかできなくなり、70歳になると鉄棒にぶら下がること自体もつらくなるのです。そんなはずはない、と思っている読者の皆さん。ぜひ散歩のときに公園に行って鉄棒にぶら下がってみてください。多分、これが体力の衰えを知る一番良い方法です。こんなに変わるのかと知ると、やはり介護が必要になることも、すぐに誰にでも起こり得ることだ、と自覚できます。