また、ネーミングに先入観が引っ張られるという効果もある。たとえば「おいしいふりかけ」という商品があったとすると、ネーミングゆえに実際の味以上においしく感じられる可能性がある。

 これは最近の、バズっている料理レシピにも共通していえることでもある。「ありえないほどおいしい○○」とうたわれているレシピには「本当か」「本当なら味わってみたい」という気にさせられるし、完成した料理の味が実際は「ありえない」とまではいわないまでもそこそこおいしく感じられることが多いのは、文字から得られた先入観によって気持ちが「おいしいと思おうとする」方向に傾いているからである。

 これらのことから、優れたネーミングは、大々的な広告展開に匹敵するか、あるいはそれ以上の訴求効果を備えるのである。

「長いタイトル」はライトノベルでも

 ネーミングが「説明的」である流れはライトノベルのタイトルにも見られる。ラノベといえばなぜかだかタイトルがいやに長くなってきている傾向があって、それはしばしばもはや文章であったりする。

 ラノベのタイトル文字数の増加をまとめたデータもあって、それによると10字以上のタイトルは1990年代以降増加傾向となるらしい。しかし「ラノベ」で「長いタイトル」の記念碑的作品といえば、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(16字)を多くの人が挙げていて、これは2008年刊行であった。

 そもそも「長いタイトル」という定義があいまいなので、フィルタによって抽出される結果はある程度変わるはずだが、たしかに、体感的に「長い」と感じられるタイトルのラノベが増えてきたのは、上記の『俺いも』あたりからな気がする。

 以降ビジネス書や漫画にも長いタイトルのものが増えていった。

 商品・製品や作品など、その分野においてそれぞれ事情は違うが、説明的、叙述的なネーミングが受け入れられ、時としてヒットにつながるのは当世の潮流であろう。

 数多に並ぶ商品群の中から手に取ってもらうために、ネーミングに工夫を凝らす――これは狙ってなかなかできるものでないが、狙えればこれほど強いアプローチもない。センスや運が問われるがコストはさほどかからない。ネーミングを制するものは令和(の一部)を制す……かもしれない。