ラー油は「食べる」ものではなく
毛布は「着る」ものではなかった

 靴下メーカーの老舗・岡本は、2013年に「三陰交(さんいんこう)をあたためるソックス」という製品を発売した。三陰交というのは足の内くるぶしにあるツボで、「血行や冷え性改善に効く」らしい。

 しかしこのソックス、当初はシニア向け製品として展開されていた。また、「三陰交」をそれとして理解している人にはガシッとリーチする名前だが、果たしてそうした人たちはどれくらいの割合でいてくれるのか。

 同社は方針を変え、2年後に名を「まるでこたつソックス」と改めて、女性向けにも展開した。パッケージデザインは垢抜けていて、白基調のそれは靴下売り場では珍しく、消費者の目を引きやすかったそうである。すると瞬く間に人気となり、売上伸長率は17倍になった。

 ネーミングは最低限の長さで留められているため非常にキャッチーであり、こたつと靴下という2つの相いれぬ要素をかけ合わせた意外性にしっかりインパクトが乗っている。「まるでこたつ」の言い回しで消費者に自身の体験を想起させている点も強い。製品名の改名は大成功といっていいであろう。

 日経クロストレンドにネーミングで成功した商品を紹介する短期連載があるので、ブランディングやマーケティングなどをやっているプロの人はきっと注目しているであろう。ここではふくらはぎをケアする「ゴリラのひとつかみ」や、カニ風味かまぼこの「ほぼカニ」などが紹介されている。

「食べるラー油」をジャンルとして定着させるほどのヒット商品だった桃屋の「辛そうで辛くない少し辛いラー油」は2009年、現在は各社が開発・販売をする「着る毛布」はベガコーポレーションのものが初出で2010年である。

 それまでラー油はただの調味料で「食べる」ものではなかったし、毛布はかけるもので「着る」ものではなかった。これらのネーミングは意外性とともに、消費者の「どんな感じ?」「ひょっとしたらあんな感じ?」という好奇心を刺激しまくって、かくしてそのジャンルにおいてちょっとしたパラダイムシフトを起こすほどのヒットとなったのである。

 これらのヒット商品のネーミングは、品名に形容詞や動詞、副詞が入っているか、名詞であっても「謎ドレ」や「ゴリラのひとつかみ」のような、具体的なイメージを提示するパターンがある。実際にゴリラにつかまれた経験のある人はほとんどいないだろうが、その製品名を聞いてなんとなく「ガッシリ強めにつかんでくれるのかな」というイメージは湧く。抽象的なようでいて具体的であり、具体的でありながら抽象的にも思える。広い解釈を許すネーミングの懐の深さは遊び心を生み、ネタとして好まれやすくなる。ネタでもなんでも一度手に取ってもらえれば商品の良さは伝わる。結果口コミにのぼりやすくなる。