チャールズ・ワン教授チャールズ・ワン教授 (C)Susan Young

ワン まずは、2023年6月、事案について報告を受けたフジテレビの経営陣の初動に問題があったと言わざるを得ません。経営陣は、コンプライアンス上の重要案件として認識することもなく、調査委員会を立ち上げることもしませんでした。

 それどころか、本来であれば調査対象となる中居正広氏を、何事もなかったように自局の番組に出演させ続けました。これらの過程は全て、フジテレビのガバナンスが機能不全に陥っていたことを明確に示しています。

 事態を最も悪くしたのは、2025年1月17日の記者会見です。この事案が経営危機にまで発展したのは、フジテレビの経営陣がこの日のメディア対応に失敗してしまったことが大きいと思います。

 会見に参加できるメディア数を限定し、終始あいまいな説明を続け、独立性が担保された第三者委員会による調査についても明言しない……。これを見たステークホルダーは「フジテレビの経営陣は説明責任を果たすよりも、事案を隠蔽(いんぺい)しようとしているのではないか」という印象を持ったと思います。特にスポンサー企業は、「このような会見をするテレビ局に自社のCMを流したら、いったい視聴者は自社に対してどんな印象を持つだろうか」と強い懸念を抱いたことでしょう。

 多くのスポンサー企業が「当面、このテレビ局とビジネスをしてはいけない」と結論づけ、翌日にCMを差し止めたのは、極めて真っ当な判断だと思います。スポンサー企業が、フジテレビ同様、「不祥事を隠蔽するような企業だ」と見られてしまえば、自社のブランドを毀損してしまう恐れがあるからです。