ウーバーに学ぶ
フジテレビ復活の道
佐藤 フジ・メディア・ホールディングスが今後、再生していくための鍵は何でしょうか。近年、不祥事から見事に立ち直った企業の事例はありますか。

ワン 配車アプリ大手の米ウーバー・テクノロジーズ(以下、ウーバー)はその代表例ではないでしょうか。2017年、ウーバーは、女性社員に対するセクシャルハラスメント、規制当局の担当者にサービスを利用させないようにするソフトの開発、創業者兼CEO(当時)のトラビス・カラニック氏の悪行や失言など、数々のスキャンダルに見舞われました。
この経営危機を脱するために動いたのが、大株主であるベンチャーキャピタルです。まず独立社外取締役の数を増やし、当時CEOだったカラニック氏を退任に追い込み、新しいCEOを招き入れました。
ウーバーが信用回復に向けて実践したのが、(1)経営陣の刷新、(2)ガバナンス機能の強化、(3)企業文化の刷新です。新CEOのもと、多様性の重視、規制の順守、ドライバーの待遇改善など、具体的な施策を打ち出し、ブランドイメージの立て直しを図りました。その結果、同社は少しずつ信頼を取り戻し、業績を大きく改善することができました。
フジ・メディア・ホールディングスとウーバーは業種も創業国も違いますが、信用回復のためにやるべきことは同じだと思います。
今フジ・メディア・ホールディングスにとって最も重要なのは、自らの過ちを正しく認識し、第三者委員会の調査結果を包み隠さず発表し、全社をあげて変革していくことを、ステークホルダーに示していくことです。また、報道機関、株主、投資家、スポンサー企業などに積極的に情報を開示していくことも必要でしょう。
チャールズ・ワン Charles C.Y. Wang
ハーバードビジネススクール教授。専門は経営管理。主な研究テーマはコーポレートガバナンス、戦略的財務分析、およびバリュエーション。MBAプログラムでは必修科目「財務報告と統制」、選択科目「ビジネス分析とバリュエーション」を担当。指導力に定評があり、2022年、ハーバードビジネススクールにて優秀教員賞、優秀メンター賞(博士課程)を受賞。ヨーロッパ・コーポレートガバナンス研究所(ECGI)の研究員、学術誌「Management Science」「Journal of Accounting Research」の編集委員など、学外でも幅広く活躍。数多くの論文賞を受賞し、2023年には「Journal of Financial Economics」に掲載されたコーポレートファイナンス分野の論文の中で最も優れたものに贈られるジェンセン賞を受賞。その研究成果はウォール・ストリート・ジャーナル、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストなどの主要メディアで紹介されている。
佐藤智恵(さとう・ちえ)
1970年兵庫県生まれ。1992年東京大学教養学部卒業後、NHK入局。ディレクターとして報道番組、音楽番組を制作。 2001年米コロンビア大学経営大学院修了(MBA)。ボストンコンサルティンググループ、外資系テレビ局などを経て、2012年、作家/コンサルタントとして独立。2017年より東証プライム上場企業数社の社外取締役を務める。主な著書に『ハーバードでいちばん人気の国・日本』(PHP新書)、『スタンフォードでいちばん人気の授業』(幻冬舎)、『ハーバード日本史教室』(中公新書ラクレ)、『ハーバードはなぜ日本の「基本」を大事にするのか』(日経プレミアシリーズ)、最新刊は『コロナ後―ハーバード知日派10人が語る未来―』(新潮新書)。講演依頼等お問い合わせはhttps://www.satochie.com/。