佐藤 会見の翌日の1月18日、トヨタ自動車、日本生命保険、明治安田生命保険、NTT東日本がCMの差し止めを発表しました。この対応についてはどのように評価していますか。

ワン 今回の問題で注目すべきは、ソーシャルメディアや消費者からの反応を見て、すぐに多くのスポンサー企業がCMを差し止めたことです。

 現代は人々の関心や注目の度合いが、大きな経済的影響を及ぼす「アテンション・エコノミー」の時代です。インターネット上の書き込みや消費者の行動によって、企業に対するイメージが急速に悪化してしまうこともあります。

 特に、今回のような女性の人権侵害に関わる問題は最重要事項として慎重に対応しなくてはならない問題です。トヨタ自動車や日本生命保険など、モノやサービスを直接消費者に提供する企業が先手を打って迅速にレピュテーションリスクに対応したのは、理にかなった行動です。

長期政権でもうまくいく企業と
フジ・メディア・ホールディングスの違い

佐藤 CMを差し止めた企業のガバナンスは正常に機能していて、フジ・メディア・ホールディングスのガバナンスは正常に機能しなかった。同じ日本企業でなぜこのような差が生まれたのでしょうか。

ワン その要因は、フジ・メディア・ホールディングスの主要事業が放送事業であることが大きいと思います。

 外資規制の対象である放送事業者(注:放送事業者は放送法と電波法で外国人株主の議決権比率が20%未満に制限されている)は、長年、日本国内の閉鎖的なエコシステムの中でビジネスを行ってきました。大株主の多くはエコシステム内の企業であったため、エコシステムの外にいる外国人投資家からの評価など、気にする必要もなかったのです。

 その結果、経営陣は、特にガバナンス変革の必要性を感じることもなく、スポンサー企業、芸能事務所、監督官庁と良好な関係を築くことにひたすら注力していきました。その経営はますます内向的になり、「透明性の高いガバナンスの構築に取り組む」「ステークホルダーに対して説明責任を果たす」よりも、「波風が立たない方法で対処する」ことを良しとする文化が強まっていきました。

 一方、トヨタ自動車やホンダなど、長年、世界市場で激しい競争を戦ってきた日本企業は、外国の投資家からの評価、国際水準のガバナンスの構築などの重要性を痛いほど理解しています。この違いがガバナンス機能の差を生んだのです。