製造業の就業者は30%→8%に低下
国民からの支持率アップを狙うトランプ氏

 トランプ氏が一連の政策でもくろむのは、国民からの支持率アップに他ならない。ウクライナ戦争に関して、米国内では「追加の支援は行うべきではない」との意見も多い。途上国の人道支援を行う米国際開発局(USAID)は現在、事実上、追い込まれつつある。「海外を支援するなら、その分国民に手厚く報いるべきだ」と考える有権者は増えているとみられる。

 また、対中引き締め策では、「米国第一の投資方針」の覚書を発表し、中国を「米国の経済安全保障に反する存在」と明記した。半導体、AIなどの分野で中国からの投資制限を強化し租税条約も見直す。「中国は米国の産業社会にとって脅威である」との認識だ。

 党派によって違いはあるものの、自由貿易の推進が米国にマイナスに働いたと考える有権者は多い。例えば、ピュー・リサーチ・センターの調査結果(24年7月)では、全体の59%が「貿易取引の増加は、米国にとって得たものよりマイナスが多い」と回答した。共和党支持者の73%は「貿易はマイナス」と答えた。また、ケイトー・インスティテュートの調査(同年8月)では、8割が「自由貿易の推進で米国製造業は衰退した」と答えている。

 全米経済研究所が発表した論文(24年1月)によると、1期目のトランプ政権が対中関税を発動した産品の生産地域では共和党支持者が増えた。その一方、報復関税の影響により関連分野の雇用者は減少した。

 いずれの調査結果も、グローバル化は豊かさにつながらなかったと考える米国民の不満を示唆している。米国のIT関連企業は高付加価値のソフトウエア開発にシフトし、国際水平分業体制を加速してきた。その結果、中国が「世界の工場」となり、米国の製造業は衰退したとの認識があるのだろう。

 米国の就業者に占める製造業の割合は1930年代の30%程度から、現在では8%程度に低下しているとみられる。米国の中間層は、一部の富裕層と、その他大多数の低所得層に振り分けられたと解釈できる。

 カリフォルニア大学バークリー校の調査(25年1月)によると、中国に対して関税政策や規制で強硬に臨むべきと考える有権者は多かった。米国第一の投資方針で、トランプ氏が「中国は米国の脱工業化の原因」と批判したのは、そうした国民の不満に寄り添う姿勢を示す目的もあったはずだ。

 他にも、イーロン・マスク氏が政府効率化省(DOGE)を通して、強引ともいえる手法で大規模な政府職員のリストラ策を実行しつつある。DOGEが削減した資金を、国民に還付する案も出している。 また、移民の強制送還策も推進している。