目線はすでに次の中間選挙へ
トランプ政策は本当に成功するのか
トランプ氏の目線は、すでに次の中間選挙(26年)に向かっているはずだ。関税、規制緩和、外交政策を使って、米国に工場を連れ戻し製造業を再興する。産業の裾野が広く経済安全保障にも重要な自動車、半導体、医薬品で就業者を増やし生活負担を引き下げる。海外支援を減らし米国民に給付を増やす――。
そうしたメッセージを国民に伝えることが、中間選挙を乗り切るために必要な条件なのだろう。支持が増えれば、次期大統領選(28年)で、トランプ氏を継承する人物が当選する可能性が高まるかもしれない。
ただ、トランプ氏の主張が、本当に米国や世界の安定につながるとは限らない。ミシガン大学が発表した2月の消費者信頼感は、24年以降で最低の水準に落ち込んだ。また、1年先のインフレ予想は、1月に3.3%だったのが4.3%に上昇している。足元の状況は、21年4~5月頃、米国のインフレが鮮明化し始めた当時に似ている。
米国の物価上昇、金利上昇は、世界経済の減速感を強くするだろう。その中で米国が他国に追加関税や制裁を発動すると、相手側も報復せざるを得ない。そうなると、本格的な貿易戦争へと突入することも懸念される。
そのタイミングで、ウクライナ戦争が一段と激化する、中東でイスラエルとイランの関係が緊迫化することも考えられる。そうなると、主要国は連携よりも自国の利害を優先するはずだ。各国が産業保護政策に傾斜して関税を引き上げて、世界経済のデカップリングが深刻化するかもしれない。
1930年、米国はスムート=ホーリー関税法を制定し産業を守ろうとした。しかし、相手国も関税を引き上げ、結果的に経済成長率は低下し、資産価格が下落した。さらには、第2次世界大戦につながったとの見方もある。関税や規制、対中締め付けで自らの支持率アップを狙うトランプ氏の政策は、世界経済の減速や資産価格下落のリスクを大いにはらんでいる。