――行ってみないと分からないということは確実にありますよね。
たとえば、新大村駅などは開業前からベッドタウンのようになっていました。そこで、メロディも少し都会っぽいものにしました。また、長崎駅は大浦や浦上の天主堂の鐘などをサンプリングしました。そして、長崎駅は終点なので、当然、メロディは列車が一方に出ていくときにしか流れません。ですから、発車メロディも皆に長崎の思い出を胸に帰ってもらおうという意味合いを込めています。
――各駅に特化したメロディになっているんですね。
西九州新幹線のメロディ制作は、別件で長崎県庁を訪ねた際に始まりました。長崎県やJR九州の担当者と打合せをしていたのですが、たまたまその部屋にピアノが置いてあり、音楽の話になりました。そこでひらめいたものを即興で演奏したのです。
――“ひらめき”が人々を動かしたんですね。
私の場合、制作に要する時間は短いのです。音楽的なセンスやひらめきは重要ですが、その背後には自身の人生経験やそのなかで培ってきたものが土壌として存在しています。これは鉄道に対する思い、ファンとしての気持ち、これまでの経験など、様々な蓄積がありますよね。これが重要だと思います。60年にわたる音楽人生と鉄道への思い、そういったものを絡め、照らし合わせて作品化していきます。その場のひらめきを演奏しているわけですから、一瞬のものといえるかもしれませんが、そこにはこれまでに培ってきたものが不可欠なのです。
――納品まではどのくらい時間をかけるのでしょうか。
私が即興で弾いたものから始まりましたが、それが開業の2年くらい前でしたから、納品までは少し時間がありました。ですから、じっくり吟味できましたね。私は自分自身が進化する部分、そして、インスパイアされる部分やイノベーション(創造)する部分は無限だと思っています。そういった“ひらめき”を温め、そこに自身の“蓄積”を盛り込みながら、形に仕上げていく。ところが、ひらめきというのは一瞬のものですので、私はそれを一瞬で忘れてしまうクセがあるんです(笑)。