メディアは事件のセンセーショナルな面ばかりを強調しがちだが、その結果、企業側が自己申告をためらうハードルを上げてしまっている。先行事例ばかりを大々的に報じ、後発事例は縮小報道にとどめるような一貫性のない対応は避けるべきである。
問題公表の背景や具体的な対応策、再発防止策などを丁寧に報じ、前向きに対応しようとする企業を評価する視点を取り入れることが重要だ。そして、そのようなリーダーシップを発揮した人物を正しく高く評価する社会的認識も不可欠である。「正直者がバカを見る」ことを止めなければならない。
不正を公表することのインセンティブ
独占禁止法のリニエンシー(課徴金減免)制度は、カルテルなどの違反行為を自主的に報告・協力した事業者に対して課徴金を減免する仕組みであり、違反行為の早期発見・是正に寄与している。
これと同様に、企業や組織が自ら不正や問題を公表した場合、一定の減免措置や優遇措置を設ける制度設計を検討することは、社会全体にとって有効な手段となり得る。
例えば、
・行政処分や制裁金の軽減
・補助金や融資制度での制裁の軽減(他者によって発見された会社の制裁は大きくする)
・社会的信用が大きく損なわれない形での回復サポート
などの施策が考えられる。
このようなポジティブなインセンティブが整備されれば、企業は不正や問題を隠蔽するよりも自主的に開示し、早期に是正を図る方が得策だと判断しやすくなるだろう。
健全な社会を築くために
必要な視点とは
このように、組織の問題の先送りが繰り返される背景には、企業の内部事情だけでなく、社会やメディアの反応、そしてインセンティブ設計の不備といった複合的な要因が絡み合っている。
もちろん、リーダーシップの強化やリスク管理体制の整備は欠かせないが、同時に
・社会やメディアがどのように問題を捉え、報道するか
・不正や問題を自主的に公表した企業をサポートする仕組みをどう構築するか
という視点を踏まえた総合的なアプローチが求められる。
これらの取り組みが相互に機能することで、企業や組織はリスクを先送りせず、迅速な対応を図りやすくなり、結果としてより健全な社会を築くことにつながるだろう。
(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)