路線バスに乗り込んだ筆者が
目にしたありえない光景
いつも以上の渋滞と車内の混雑に気が立っていたのか、運転手の女性は、ドアが開くなり立ち上がり、「早く乗れ!早く乗れ!早く!早く!早く奥に行け!」とわめいている。
出発したバスが交差点を直進しようとしたそのとき、後ろを走っていたタクシーがバスを右から追い抜いて左折を始め、行く手を阻んだ(中国の車は右側通行だ)。もともと機嫌が悪かった運転手は完全にブチきれ、窓とドアを開けて、ものすごい声で怒鳴り始めた。
すると今度は、バスの斜め後ろを走っていたタクシーの運転手が、乗客を放置して外に飛び出し、バスに乗りこんできた。どうやら、バスが進まないから自分たちも前に行けないと怒っているようだ。バスとタクシー、運転手2人が本来の業務である運転を放棄し、信号のある交差点で言い争いをしているので、他の車も進めなくなってしまった。周辺の車はクラクションを鳴らしまくるが、頭が沸騰した2人には聞こえない。
2人がバスの中で言い争いを始めて2、3分ほど経ったとき、バスを追い抜いて進路をふさいでいたタクシーが無事左折を終え、前方が開いた。すかさず乗客が「ほら、行ったぞ。行ったぞ!進め!」と怒鳴った。
しかしバスの運転手はまだ怒りが収まらず、前方に向かって叫び続けている。後方から1人の乗客が、「外国人はお前の言っていること、全然わからないぞ」とやじった。これに運転手が「外国人がどうした!」と言い返す。
「なんで唐突に外国人が出てくるの……私も外国人だけど」と思っていたら、本当に(私ではない)外国人が、変なアクセントの中国語で「私は外国人です」と大声を張り上げた。
すし詰めで身動きが取れない車内で飛び交う怒号、ときどき外国人。この混乱のゴールがどこにあるかもわからない。
周囲の車からはクラクションの嵐が注ぎふる。バスの中も外も、大変なカオスに陥っている。しばらくすると運転手の女性は「やっとられん」とばかりにバスを降りてどこかに行ってしまった。