再出発に向けての準備も始めた。装備品を一から揃えなければならない。なにしろ笑えない額を失ったあとだったので、節約スイッチが入り、市場で安いものばかり選んで買っていった。

 車輪の横につけるサイドバッグは買い物バッグで代用した。

 ナイロン糸を編んでつくられた特大のバッグで、市場に山積みされていたものだ。1個約60円。これを前輪と後輪それぞれの左右につけているキャリア(荷台)に1つずつ、計4つ、自転車の古チューブで巻き付けた。

 完全に固定できたように見えたが、旅を再開すると悪路の下り坂などではしょっちゅう外れて落ちるため、そのたびにバッグを拾いにいかなければならなかった。

 また、糸が太いため網目が大きく、繊維というよりはザルといった様子で、1日の走行を終えると中は砂埃だらけになった。

「目からうろこ」の鍋選び
旅の途中で気づいた異変

 調理器具は重ねてコンパクトに収納できるアウトドア用のコッヘルではなく、普通の家庭用の鍋を大小2個とフライパンを1個買った。取っ手が邪魔だが、サイドバッグ(代わりの買い物バッグ)が特大だから気にせずなんでもかんでも突っ込むことができる。

 鍋もフライパンも厚さ5ミリほどの同規格のアルミ製で肉厚なのに自転車のヘルメットみたいに軽かった。

 地面に商品を広げ、埃まみれで売っているような露店で買った安物だが、意外とそういうところに掘り出しものがあるのかもしれない。村人たちが何気なく使っている日用品が案外優れものなのだ。“かさ”に目をつぶれば安い日用品でこと足りるのだ。

 それらのことに気付いて、目からうろこが落ちたような思いがした。

 ところが再出発して数日後のことだ。ご飯を炊いて蓋を開けたとき、何か奇妙なものが見えた気がして、あれ?と首を傾げた。でもまさかな、と思いなおし、暗くてよく見えなかったことも手伝って、違和感を胸にしまった。

 それからもほぼ毎日ご飯を炊き、食べるころには暗くなっていたので、ご飯の状態がよくわからないまま気にせずワシワシかき込んでいた。