自分の仕事に意味を見出せる人には、オプティマルゾーン(編集部注/それぞれの人にとって重要な何らかの基準で、生産的な「よい日」を過ごした、と満足できる状態)のあらゆる兆候が見られる。つまり、より心身が健康的で、仕事への意欲が高い。活躍し、成長する。ちなみにこの場合の「仕事」は、一般的な意味でいう仕事に限らない。子育てや親の介護のようなことにも意味は見出せる。
給料、ボーナス、昇進、成績が
逆に意欲を奪うかもしれない?
目的意識が主な動機づけ要因だという見方は、給料やボーナス、昇進などの誘因(インセンティブ)によってモチベーションを高めようとする、一般的な管理手法とは相容れないように思われる。実際、「人は報酬があるとよい仕事をする」という標準的な仮定に対し、「報酬はかえってパフォーマンスを阻害する」という過激な反論が長らく唱えられてきた。
報酬とパフォーマンスの関係に初めて疑問を投げかけたのは、報酬よりも情熱や目的意識の方がモチベーションに大きな影響を与えることを示した、数十年前の研究だ(注5)。この研究をもとに書かれたアルフィ・コーンの1993年の著書、『報酬による罰』(タイトルがすべてを物語っている)は、「成績などの報酬は学生の学習意欲を奪う」と論じた[コーンの著書の邦題は『報酬主義をこえて』]。コーンの主張は数々の研究結果によって裏づけられ、その後も多くの支持を得て有力な考え方となった。学生や社会人のモチベーションに関する常識に異議を唱えたこの見解は、今ではビジネス界や教育界の隅々にまで浸透している。
この「反報酬主義」の最も強力な根拠が、学生の成績評価(状況次第で報酬にも罰にもなる)と達成度との関係を調べた、膨大なデータである。たとえばコーンの著書では、当時の有力な心理学者だった、エドワード・デシやリチャード・ライアンなどが行った、よい成績を取るために頑張ることよりも、学びたいという内発的動機づけを持つことの方が強力なモチベーションになることを示した研究が紹介されている(注6)。
イェール大学でおそらく最も人気の高い講座の「幸福論」を教えるローリー・サントスは、先ほどのアルフィ・コーンの本を課題図書にしている。サントスによると、超優秀な学生がこの本を読むと、勉強だけの日々に疑問を感じ、「自分はなんのために生きているのだろう?」と考えるようになるという。
注6 Edward L. Deci and Richard M. Ryan, Intrinsic Motivation and Self-determinationin Human Behavior (New York: Plenum Press, 1985). A summary of their work is in R.M. Ryan and E. L. Deci, “Self-determination Theory and the Facilitation of IntrinsicMotivation, Social Development, and Well-being,” American Psychologist 55, no. 1
(2000): 68-78, doi:10.1037/0003-066X.55.1.68.