彼女の答えはこうだ。「朝コーヒーの香りをかぐこと。子どもを愛すること。セックス、ヒナギク、春。人生のあらゆるよいことが目的になりますよ」

 サントスが挙げたのは、気分を上げてくれる日々の楽しみ、いわば「小文字の」目的(purpose)だ。だが、私たちを突き動かし、人生に本当の意味と目的を与えるのは、より深い内発的モチベーション、すなわち「大文字の」目的(Purpose)であることが示されている。

 あなたの目的意識の核にあるのは、あなたの行動に意味を与える「価値観」だ。この価値観が、あなたの「心の羅針盤」になり、あなたの最も重要な決定を導く。このことはとくに大文字の目的、つまりあなたにとって最も特別な意味を持つ使命について言える。

ナチスの強制収容所で
どうやって生き延びたか

 大文字の目的を持つことの大切さを提唱したのが、ウィーンの精神科医で、ナチスの強制収容所から生還した数少ない1人である、ヴィクトール・フランクルだ。フランクルは両親と兄、そして身重の妻を強制収容所で亡くした。アウシュヴィッツ(彼が経験した4つの収容所のうちの1つめ)に連行された時、どうしても出版したい原稿を上着の裏地に縫いつけて隠し持っていた。上着は着いたその日に没収されてしまったが、いつかその本を出したいという燃えるような思いを、4年間の監禁生活の間持ち続けた。

 フランクルが収容所から解放されてから出した『夜と霧』は、世界的ベストセラーになり、世代を超えた読者の人生の羅針盤となっている。フランクルはこの本の中で、生きる意味と目的を見出せばどんな苦しみも生き延びられると説き、その証拠として4つの収容所で九死に一生を得た経験を示した(注7)。

「どんな仕事をしているんですか?」→NASA清掃担当者の答えに「仕事のモチベ爆上がり」のヒントがあった!『ゾーンに入る EQが導く最高パフォーマンス』(ダニエル・ゴールマン著、ケアリー・チャーニス著、櫻井祐子訳、日本経済新聞出版)

 フランクルは、生きる目的を持つことによって、最悪の状況でさえも乗り越えられると書いた。彼はドイツの哲学者フリードリヒ・ニーチェの一節を引用している。

「生きる理由を持つ者は、ほとんどどんな生き方にも耐えられる」

 自己中心的な価値観(苦痛を避け、快楽を求めるなど)を手放すことによって、より大事な価値観に導かれた人生を生き、「どう感じるか」だけでなく、「どんな人間になりたいか」を考えた上で、選択を下せるようになるのだ(注8)。

注7 フランクルの死後に出版された、彼がナチスの強制労働収容所から解放されたわずか数ヵ月後にウィーンで行った講義をもとにした著書で、この物語が紹介された。これらの忘れられていた講義は再発見され、先般初めて英語で出版された(ダンは光栄にも前書きを書かせてもらった)。この本のタイトル(『それでも人生にイエスと言う』、未邦訳)には、フランクルの姿勢がよく表れている。Yesto Life: In Spite of Everything (Boston: Beacon Press, 2020).
注8 T. B. Kashdan and P. E. McKnight, “Commitment to a Purpose in Life: An331 Antidote to the Suffering by Individuals with Social Anxiety Disorder,” Emotion 13, no.6 (2013): 1150-1159, doi:10.1037/a0033278.