起業家というものは、社会の「不」の部分を解消してくれる存在です。不満や不安、不足や不利益といった消費者の「不」に注目した新規事業は、消費者からみれば希望の光です。

 スマホが高いというのは今の日本社会では大きな「不満」のひとつですし、そのスマホで大半の利用者がギガを使い切れずに損をしているというのは「不利益」です。

 では、大手の携帯電話会社がメルカリモバイルのようにギガの個人取引を始めてくれるかというと、そんなことは起きません。なぜなら携帯電話会社は基本的には「使われないギガ」のおかげで利益を上げているからです。

 ギガが余る人の分はそのまま利用料として徴収して、ギガが不足する人には1ギガ550円で売ることができるから、携帯電話会社のビジネスは成立しています。だから大手携帯電話会社はメルカリモバイルの真似をしたくない。競争のないブルーオーシャンの新規ビジネスの着眼点としては、メルカリモバイルは非常に的を射ています。

 ただ、ここにもひょっとするともうひとつ落とし穴があるかもしれません。大手携帯電話会社はメルカリモバイルの真似をしてこないという前提が、場合によっては覆る可能性があります。

 わかる人だけにわかればいい例として、仮にヤマダくんよりも大富豪のソンさんという人がいたとします。「携帯会社が損をしても、ペイペイ経済圏が大きくなるんだったらその方が面白いんじゃないの?」と考えたとします。

 そもそも日本のフリマ市場はヤフオク!(現Yahoo!オークション)が開拓してきた市場です。そのYahoo!が提供するYahoo!フリマはメルカリに押されて旗色が悪い状況です。

「だったらYahoo!フリマの広告宣伝費のつもりで、月額490円で2GBプランのペイペイモバイルを作ろうよ。ギガの売買で使うペイペイは他のどこでも使えるし、メルカリよりも便利になるんじゃない?」という発想になった場合、これはいろいろな意味でメルカリモバイルにも、ドコモ、KDDI、楽天モバイルに対しても強敵になるかもしれません。

 まあ幸いにしてそのような大富豪はAIと75兆円投資で頭がいっぱいでしょうから、その意味ではギガ取引の競合の出現は杞憂かもしれません。メルカリモバイルがどのようにテイクオフできるか、心の中で応援しつつ注目したいと思います。