入局してまだ9年です。10年、20年、いや30年、そうそうたるキャリアをもつ先輩アナウンサーがいる中で、大監督だった川上さんの、解説としての初仕事にご一緒できるなんて、「こんなに感激するような仕事はないな」と、うち震える思いがしました。

 いよいよその日、私は試合前、放送席で、

「川上さん、くれぐれもよろしくお願いいたします」と言いました。

 すると川上さんが、

「草野さん、今日はね、あんたが放送の先生。私は生徒なんだ。だから、いろいろと気付いたことがあったら、それをダイレクトにバンバン言ってほしい。私のほうこそよろしく」と言ってくださいました。

 大監督からそのような言葉をいただいて、私は大変安心して放送を終えることができました。周囲からも「なかなか面白くてよかったよ」と評価をいただきました。

 監督という立場を離れても、いかに川上さんがいろいろなところに目を配り続けていらっしゃるか。それがよくわかった経験でした。

ひとしの金言
先入観を捨て、素直な気持ちで向きあう

部下へのアドバイスを
適切に伝える方法とは?

 相手に伝える内容には、いいことばかりではなく、言いにくいこともあります。

 会社や学校で、あるいは家庭で、部下や後輩、わが子に対して、「こうしてほしいな」「これは注意しておいたほうがいいな」「最近ちょっとおかしいぞ」など、注意や指導をする場面が必ず出てきます。

 聞く側にとって、気持ちのいいものではないことが多いので、伝える側の工夫がもっとも必要な場面かもしれません。

 とりわけ近頃の若い方は、自分の行動に対して他から何かを言われることへの免疫が、以前に比べてとても弱いように思えます。

 私がNHKでスポーツ放送をしていたときは、先輩方から「あのときの放送は、もっとこういうふうに言ってはどうだろう」などと指導を受けることはごく当たり前でした。また、「確かにその通りだな」と、素直に受け取っていました。

 しかし今は、必要なアドバイスひとつするにも、上司はとても気を遣うと聞きます。それどころか、「何を言うんですか、それが私のいいところなんです」などと反論する部下もいるそうです。