
TVキャスターの草野仁氏が『ザ・ワイド』の司会を務めていた1994年、オウム真理教によって猛毒のサリンがまかれ、8人が死亡した「松本サリン事件」が起きた。各局のワイドショーが日本の専門家を解説者として招くなか、『ザ・ワイド』は草野氏の提案で、テロ事件にも詳しいアメリカの“毒ガス兵器の専門家”が登場し、話題を集めた。オウム真理教の危険性を暴き、脅迫を受けながらも真実を追い続けた草野氏が迫った“核心”とは。※本稿は、草野仁『「伝える」極意 思いを言葉にする30の方法』(SBクリエイティブ)の一部を抜粋・編集したものです。
アメリカの毒ガス兵器の専門家が語った
長野県松本市で事件が起きたワケ
相手に「これが真実だ」と伝えたいけれども、自分だけの力ではどうしても解決できないこともあります。
そのときに有効なのは、「専門家の意見を活用する」ことです。
私は1993年から2007年まで、日本テレビの『ザ・ワイド』という2時間の情報番組の司会を務めました。
放送を開始して2年目、1994年6月27日に松本サリン事件が起こりました。
これは、オウム真理教という新興宗教の団体の信者が、長野県松本市の住宅街で猛毒のサリンガスをまいた事件です。この事件で8人が亡くなり、600人以上の方が被害を受けました。
マスコミはそれを一斉に取りあげて報道しました。
しかし、どんなにニュースで話題になっても、何がどうなっているのか、さっぱり伝わってきません。
私は「なぜだろう」と思って、各局の放送を見比べました。
そして気付いたのは、解説をしているのが、サリンの化学式は知っていても、サリンを見たことも触ったこともない、国内の薬学者や化学者たちだということでした。
「ほとんど素人といっていい人たちが解説をしている。だから肝心なことに話が及ばないんだ。これは毒ガスの専門家を呼ぶしかない」
そう考えた私は、アメリカの毒ガス兵器の専門家を番組に呼んでもらうことをプロデューサーに打診したのです。
初めての試みだったので時間はかかりましたが、1994年の12月、アメリカの生物化学兵器研究所の副所長である、カイル・オルソン氏が来日し、番組に出演してくれました。
松本の事件を検証した彼は私に「草野さん、なぜ松本でサリン事件が起こったかわかりますか」と質問してきました。
「いいえ、それはわかりません」と答えたら、
「それは松本がテロのテスト地として選ばれたからです。テストをやったということは、次は必ず本番があります。
それはもちろん、東京です。
狙われる場所は閉鎖空間。地下鉄、新幹線、野球場、映画館などです。くれぐれも気をつけてください」と告げました。