下図に、マウスで検討した各種の抗がん剤の最適な投薬時刻を示していますが、私たちヒトでも同様の検討が必要です。そして、この時刻もまた個々人で異なるため、この点をよく理解したうえで、投薬時刻のスケジュールを決定することが肝要です。

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従来の抗がん剤治療は、EBM(編集部注/エビデンス・ベースド・メディシン。科学的根拠に基づいた医療のこと)に基づく統計的な投薬量・投薬時間にしたがっておこなわれてきましたが、時間治療においては、患者さん1人1人のサーカディアンリズムに依存した時間変調効果を考慮・調査し、その結果に基づいて投薬量や投薬時間を決定することが求められます。きめ細やかな対応が求められますが、これは本当の意味でのオーダーメード医療といえるでしょう。
「24時間」周期と「7日間」周期
2つのリズムを考慮して治療の効果が向上
続いて、サーカディアン/サーカセプタンリズム(編集部注/生物に存在する約1週間周期のこと)を考慮した時間治療の例を紹介します。1982年に報告された時間治療の初期の成果の1つで、ラットの腫瘍(悪性リンパ腫)を治療する際に、通常の治療に比べて治療効果が上がることを明らかにした実験結果です。
この実験では、抗悪性腫瘍薬レンチナンを1週間にわたって毎日、活動時に投薬する通常の投薬治療スケジュールと比較しました。

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サーカディアン/サーカセプタンリズムを考慮した時間治療では、レンチナンを眠っている時刻に(サーカディアンスケジュール)、1日の投薬量を日ごとに変化させて1週間投薬(サーカセプタンスケジュール)しました。1日の投薬量は変化させていますが、1週間分の総投薬量は通常の投薬スケジュールと同じです。
時間治療をおこなったラットでは、3.6cmだった腫瘍が3.2cmに縮小した一方、通常のスケジュールで投薬した個体では3.8cmに増大してしまいました。
その効果を評価した実験を紹介します。約1ヵ月後の生存率が、治療なしのラット群では50%でしたが、時間治療をおこなった群では76%に改善した一方、通常の投薬スケジュール群では24%に低下してしまいました。
これとは別におこなわれたサーカディアン/サーカセプタンリズムを考慮した時間治療では、メラトニンが白血病や乳がんの治療に有効であったことから、時間治療にみられた効果にメラトニンが関係している可能性があると論じています。