個々に最適な投薬方法を設定する
オーダーメード医療がつくる未来
生体機能には多重の生体リズムがあって、個々に異なっています。そのため、それぞれの生体リズムにマッチした投薬時刻の工夫を、患者さんごとに個別に探る努力が必要です。
最近、薬理学の進歩によって投薬方法が工夫され、「時間制御型薬剤投与システム」が開発されました。服薬時刻ごとに処方内容を変更した製剤の開発も進められており、時間薬理学が発展しています。しかし、本記事でみてきたように、抗がん剤の投薬には、個々にきめ細かい最適な投薬方法を設定するオーダーメード医療が必要不可欠であり、そこにこそ、この研究分野の課題が残されています。
そのようななか、乱れた生体リズムの位相を調節するための薬剤の研究開発が始まりました。この研究は将来、薬効が大きくなる生体リズムの位相を推測し、投薬しやすい時刻に位相を調節して薬効を高め、薬害を最小限に抑えることに貢献することが期待されます。九州大学・大戸茂弘教授らの研究成果と韓国科学技術院のキム博士らの薬剤開発が進んでいけば、近い将来、そのようなオーダーメード医療が可能になることも夢ではありません。
私たちの体には、多様な生体リズムが宿っています。時間治療にとって最も重要なことは、これら多種多様な生体リズムが互いに作用し合って時々刻々変化して(微調整されて)いることを念頭に置いておくことです。治療が各リズムのどの位相でおこなわれたかによって、その効果が大きく変わってしまうからです。

時間を考慮しない治療では、あるときは治療効果が弱くなり、あるときはなんの作用も現れず、そしてまたあるときは、治療効果が大きく現れるといった、結果の安定しない治療になってしまいます。時間治療の有無によって、同じ薬を同じ量使っても、治療の質が変わりうることをぜひ知っておいてください。
薬剤を用いた治療だけではありません。放射線治療でも、食事や睡眠、運動などの生活治療でも、「いつ実施するか」で、結果はことごとく異なってしまうのです。時間治療の質を向上し、より良い治療を切り拓いていくためには、生体リズムとの関わりを考慮した治療を忘れてはなりません。