![雲西寺(大分県) 投稿者:hirolotti [2024年4月5日]](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/b/7/650/img_b79072eab0a235ab5afcf65e56149883305392.jpg)
分別が設ける心の中の「分離壁」
続いては彼岸寺賞を受賞した作品「おなじ船にのっている バンクシー」。こちらは雲西寺(大分・中津市)の掲示板で、講評は以下の通りです。
今年もいろんな意味で激動の一年だったように思います。世界の各地で様々な差別と分断が生み出され、争いに繋がっていく。このような行いは、気に入らない他者を苦しめるだけにとどまらず、必ず自らをも傷つけることにも繋がるもの。私たちは誰もが同じ船に乗る者として、共に手を取り合える、そのような明日を願ってこの言葉を選びました。
世界的なアーティストであるバンクシーは、2021年にイギリスの公園の壁に子どもたちの絵を描き、そこに「WE'RE ALL IN THE SAME BOAT(わたしたちはみな同じ船に乗っている)」というメッセージを残しました。このメッセージには「分断を超える」という意図があり、バンクシーは現在でも平和を訴える絵を世界各地に描き続けています。
私は一度、バンクシーの作品を生で見たことがあります。それはヨルダン川西岸にあるパレスチナ自治区ベツレヘムでのことでした。パレスチナ人が居住するベツレヘムには街を取り囲むような形で高さ約8mもの巨大な分離壁が立てられています。これはエルサレムへの往来を制限するためにイスラエル政府が設置したものです。
私を案内してくれたパレスチナ人のドライバーはこの壁を怒りの眼差しで見つめていました。その視線の先の壁には、8つの風船を握って空に昇っていく少女の絵が20年ほど前から描かれていました。分断の壁(世界)を超えるというバンクシーの意図が、私には痛いほど伝わってきました。ベツレヘム市内には、防弾チョッキを着た鳩、兵士をボディチェックする少女、ハートを出す天使、花束を投げる青年など、他にもバンクシーの作品が多く描かれています。
このような壁を設置するのはイスラエルという国家に限りません。人間はいつも何かを分け隔てるための壁を設けます。物理的な壁ではありませんが、私たちも同じように「あの人が嫌い」などと言って、心の中に“分離壁”を設置し、常に多くの分断や差別を作り出しているのです。
私たち人間は“分別心”によって、物事を何でも分けてしまいますが、仏さまの“無分別”の目から見れば、私たちはみな同じ船に乗っています。自分自身も実は分断や差別を作り出している主体であることを覚えておきたいものです。