管理職コーチングと育成上手のマネジャーの存在

「管理職コーチング」とは耳慣れない言葉であろう。一言で言うと、「現場のマネジャーによる、部下に対するコーチング行動」のことであり、多くの企業で導入されている1on1ミーティングもその一形態である。一般的に、コーチングというと、部下の話を傾聴し、質問することで部下が自分で頭の中を整理し、パフォーマンスを上げることをサポートする活動と思われがちであるが、「管理職コーチング」行動はそれだけにとどまらない。フィードバックやアドバイス、さらに、チームづくりも含まれると私は考えている。つまり、部下育成行動とほとんど同様の概念である。

 そして、「上司と部下の幸せな関係づくり」という問いに答えるために、私は、まず、世界中の研究者が検証している足跡をたどり、どのような条件が管理職コーチングを機能させるのか、本当に業績や成果につながるのか、どのような行動が成果につながるのか、などを網羅的にまとめた。そのうえで、上司と部下の幸せな関係づくりに成功し、パフォーマンスを上げているマネジャーは、何をどのように行っているのかを知るために、多くの育成上手のマネジャーのインタビューを実施した。育成上手のマネジャーは、職場づくり、仕事のアサインメント、振り返りのさせ方など、さまざまな工夫を凝らしているはずである。しかし、それはブラックボックスの中にあり、外から覗くことはできない。その中身を明らかにしようとしたのである。育成上手のマネジャーの具体的なコメントは、たとえば、次のようなものがある。

「メンバーの方には、いろいろな活動に積極的に取り組んでほしいと思っています。経験していくことで、判断力も備わってきます。結果が成功体験になったり、失敗体験になったりすることもあるかもしれません。どちらであったとしても、そこから何を得て、次に何を活かしていくのか、さらにその次の機会にどう活かすのかが大事なのかな、と」

 インタビューによって収集した定性データを、質的分析でまとめ上げ、さらに統計的な手法で精緻化することにより、問いに対する私なりの解を導き出した。その一部を紹介する。