J-REITを資産に加えることで
得られるリスク分散効果
今回強調したいのは、J-REIT市場のリスク・リターンの特性に構造変化が起こっていることだ。具体的にはJ-REITを株式ポートフォリオに加えることでリスク分散効果が働き、リターンの水準をある程度維持しながらポートフォリオ全体のリスクを低減する効果が生じるようになってきた。
多くの個人投資は実額の評価損益やリターンばかりに関心が傾斜しがちだが、投資リターンの変動性としてのリスクは、リターン同様に重要な条件だ。08年のリーマンショックや2000年代初頭のITバブルの崩壊など、相場の大反落を乗り越えて長期で高いリターンを実現する持続可能性の高い投資にリスク抑制は欠かせない。
図表2をご覧頂きたい。これは04年4月から25年2月まで、日経平均株価指数(横軸)と東証REIT指数(縦軸)の前年同月末比(%)の関係を散布図にしたものだ。
元々REITは株式市場とはある程度異なる変動をする中リスク・中リターンの資産クラスとなることが期待され、日本では01年にスタートした。
ところが図表2の青の分布が示す様に21年まで、実際の東証REIT指数は株価指数との連動性が非常に高く(右肩上がり分布、正の相関関係)、しかもその変動性が株価よりも高く、セオリーとは異なる価格形成が続いていた。
例えば06年から07年にかけての東京を中心とする不動産のプチ・バブル局面では、東証REIT指数は日経平均以上に急騰し、その後08年のリーマンショックで大暴落した。
また12年12月からのアベノミクス開始局面では、長期国債の利回り低下に伴って東証REIT指数は日経平均以上に急上昇した。これは利回りがほぼゼロ%まで下がった(価格が上がった)長期国債からJ-REITへ、銀行など金融機関のポートフォリオのシフトが起こったためと考えられる。
しかしREITが対象とする各種商業ビルや住宅などの賃料の変動性は、企業利益の変動性に比べると相対的に低い。それにもかかわらず、株価以上にJ-REIT価格が変動するというのは、債券や株式市場に比べてJ-REIT市場の規模が狭隘であること(全銘柄時価総額15兆円前後)を考慮しても、価格形成機能の未成熟さを感じさせるものだった。
ところが図表2の赤い分布が示す22年以降の東証REIT指数と日経平均の関係は次の2つの点で、それ以前と異なっている。
(1)2022年以降は東証REIT指数と日経平均との変化が、それまでの正の相関(右肩上がり)から僅かながら負の相関(右肩下がり)に変わった。(2)赤い点の分布の上下の変動幅が小さくなった。つまり東証REIT指数の変動性が低下した。
なぜこのような変化が起こったのか?
直接的な要因は株価全般の上昇トレンドの中で、インフレ率の底上げに対応して日銀がそれまでの量的金融緩和政策を終焉し、債券利回りが上昇したことだ。それまで債券投資の代替としてJ-REITを購入していた銀行などがJ-REITを売って長期国債の保有に回帰した。その結果、J-REITは大幅な割安圏に下落したのだ。
株価とJ-REITの価格変化の関係が、再び正の相関に今後戻らない保証はないが、筆者の経験ではこうした資産クラス間の関係性は一度変わるとその後は中長期的に比較的安定的に継続する傾向が強い。
何よりも、現下のJ-REIT市場は、長期債券利回りの上昇に過剰に反応して下落しているという点を除けば、株価との連動性の喪失は投資家にとって望ましい変化だ。というのはポートフォリオに株式とは異なる変動性を持つ資産を加えることで、リスク分散効果が働き、投資リターンを維持しながら、リスクを低減する効果が生まれるからだ。