なぜ、研修にミュージカルが効果的なのか?

 研修は、ミュージカルを発表して終わりではなかった。再び、チームごとに分かれて、研修全体の振り返りが行われた。まずは、チーム全体でディスカッションし、その後、自分自身とメンバーに対しての思いを一人ずつ語っていく。各チームにトレーナーとしてついている音楽座のメンバーがファシリテーションを担い、オブザーバーである先輩社員も席に加わる。

 ひとつのミュージカル作品を創り、演じ終えた一体感もあるのだろう。すべてのチームがかなり熱い様子で、一人が発言すると、「それ、わかる!」といった声が上がるなど、メンバー間のフィードバックが積極的に行われていた。

 やがて、研修受講者全員が再び一堂に会して、クロージングタイムとなった。事前に、田中さんが私に、「音楽座さんと研修受講者によるフィナーレが見ものですよ」と耳打ちしてくれていたが……いったい、どのようなフィナーレなのだろう?

 それは、全員で円陣を作り、ミュージカル『SUNDAY』の歌の一節を披露するというものだった。プロのミュージカル俳優であるトレーナーが研修受講者に歌詞を教え、何度か練習してから、全員で歌い始めた。音楽座のプロ俳優ならではの迫力ある歌声に、入社3年目社員たちも引っ張られ、歌詞のサビ部分では最高潮の盛り上がりを見せた。

 そして、最後は、研修受講者一人ひとりに修了証が渡され、両手を広げた“ミュージカル風の決めポーズ”で全員集合の記念撮影が行われた。

 私は、音楽座の藤田さんと石川さんに、改めて、「なぜ、入社3年目社員の研修にミュージカルが効果的なのか?」を尋ねた。

「ミュージカルは、すごく“感覚的”なものです。(歌のない)演劇だと、頭を使ってセリフのやりとりをすることもできるけれど、歌は感覚で伝えなくてはいけない。理屈ではない部分で得た“気づき”が、今後の仕事にも活かされるでしょう」(藤田さん)

「ミュージカルを演じるって、実は“恥ずかしい”ですよね。日常で、いきなり、人前で歌って踊ることはありません。でも、恥ずかしいからこそ、鍛えられるのです。みんなの前での発表なので、適当にごまかすこともできません」(石川さん)

 自分たちのミュージカル作品を披露したことで、フィナーレの大合唱では研修受講者の顔に恥ずかしさの色はなく、全員が、吹っ切れたような、晴れやかで清々しい表情をしていた。

 藤田さんが、今回の「バリューミュージカル研修」の手応えを語る。

「自分がこれからどうしたらいいのか……それがわかりつつあるものの、まだ受け止めきれない。今回の研修受講者たちにそんな印象を持ちました。でも、それでいいのです。研修のテーマは『私が終わる、私が始まる』ですが、変わることだけが重要ではありません。『SUNDAY』は、人は簡単には変われないけれど、変わることに気づけば世界も変わることを描いた作品です。研修を通じて、変わろうとする自分に気づくことができた――それだけでも、大きな成長だと思います」(藤田さん)

 理屈ではなく、感覚で何かを表現すること、変わろうとする自分に気づくこと――入社3年目の研修受講者たちにとって価値のある研修が、全員の充実した笑顔で幕を閉じた。

*4月10日配信予定の「【ミュージカル研修(後編)】若手社員は、変化し続ける組織の中で、変化し続けられる人であってほしい」に続く