スピーチの特訓だけをしても
「話し上手」にはなれない

田中 「話すスキル」は、どうすれば上達するのでしょうか?

緒方 「上手な話し方」の指南として、「スピーチレッスン」というものがありますよね。でもこれは違うんです。

【おふたり】

「声」での発信は、「文字」での発信のような、「情報伝達」の手段だけではないんです。声で人に伝えるというのは、「情報伝達」と「人間伝達」の両方をしています。

 その意識がなければ、「どのような情報を、どのように伝えるべきか」だけを考えてしまい、結局、人が聞いてくれるような話ができなくなってしまうんです。

田中 たしかに、「話すのが苦手」と言う人の「話す」は、「情報伝達がうまくなる」だけに偏っていることが多いですね。

 自分の考えや思いを相手と共有し、相手の反応を楽しむ。本当は、その方法を磨いたり、場数を踏んで経験を積んだりすることが大切なのに、「情報伝達」の練習だけを繰り返し、いつまでたっても「人間伝達」、つまり、人間性を共有することができない。プレゼンがうまくても、話すのがうまいということにはならないんですね。

緒方 そうですね。ですから、「話すのが苦手」と思うなら、まず、そこに「聞いてくれる人がいる」という意識をしっかりと持つことが大事なんだと思います。その人が、自分の話を聞いて喜んでくれるにはどうすればいいかを、考え、試し続ける。

「どのように内容をなめらかに伝えるか」ではなく、「どうすれば自分の人間味を伝えることができるか」。

 そのためには、「話すのがうまい」と思う人の話し方を、ひたすらまねしてみることもひとつです。「モテたい」と思っている人は、寝起き姿のままで出かけたりしませんよね。清潔にして、服を選んで、おしゃれして出かけます。話すのも同じで、それなりに気を使うことは当然、必要ですし、できなければまねをして学べばいいんです。

 ポジショントークみたいになりますが、Voicyのパーソナリティは、そういうまねをしたい人たちの宝庫ですので、彼らの話をたくさん聞けば、どのように話を構成すべきか、どのように話せばいいか、すんなり身に付くと思いますよ。

田中 5年前にVoicyのパーソナリティを始めたときは、「しゃべるの、苦手」と思っていました。今も得意だとは思っていませんが、「こんなこと言って大丈夫かな」と思うことにこそ共感してもらえる体験を何度もすると、もっともっとしゃべりたくなるんですね。

声のコミュニケーションの活発化は
孤独の解消に寄与できる

【おふたり】

緒方 人間伝達がうまくいくことは、人とのつながりをつくるものでもありますし、孤独の解消にもなります。

 みんな、「話すの、苦手」と言う割に、自分の話を聞いてほしいんですよ。自殺の原因の多くは孤独だと言われています。だったらまず、誰かに話してみてほしい。必ずどこかに話を聞いてくれる人はいます。

 田中さんがおっしゃったように、聞いてくれる人がいれば、人は話したくなるんです。そしてもっと聞いてもらえるように、話すスキルを上げたくなる。多くの人たちの話すスキルや聞くスキルが上がり、声のコミュニケーションが活発化すれば、もっと孤独の解消は進むはずなんです。

 文章を書く文化と同様に、声で発信する文化がどんどん浸透していけば、世の中はもっと豊かになりますし、個人と個人の間も豊かになります。とはいえ、社会をいきなり変えることができないのも現実です。ですので、音声メディアを聞いた人が、「声での発信っていいよね」と、周囲に話して、それがじわじわと社会へ広がっていく。Voicyはその橋渡しになればと思っています。

田中 そうなればすごく素敵な社会になりそうですね。声の世界を、もっともっと広げていきたいです。本日は貴重なお話、ありがとうございました。