
同時通訳者として、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、ダライ・ラマ、オードリー・タンなど世界のトップリーダーと至近距離で仕事をしてきた田中慶子氏。「多様性とコミュニケーション」や「生きた英語」を主軸に、さまざまな業界のプロフェッショナルと対談していきます。今回は、Voicy創業者で代表の緒方憲太郎氏と対談。著名人や専門家などのパーソナリティが発信する個性的な音声コンテンツを提供するVoicyは、リスナー同士がコメント欄で交流するなど、音声を媒介とした温かなコミュニティが育つプラットフォームとして多くのファンを魅了しています。なぜ今、音声コンテンツが求められているのか? 日本と海外のコンテンツの大きな違いとは何か? 「話し上手」になるにはどうすればよいのか?(文/奥田由意、編集/ダイヤモンド社 編集委員 長谷川幸光、撮影/佐藤直也)
日本の社会人の1日の
平均学習時間は「7分」
田中慶子氏(以下、田中) Voicyでパーソナリティを務めさせていただいて5年目になりました。私にとってもVoicyという場はなくてはならないものになっています。
通訳の仕事は、事前準備が非常に大切です。最近はポッドキャストなどで音声配信している方が増えているので、準備の一環としてそれらを聴くことも増えました。
緒方憲太郎氏(以下、緒方) 話すときの「間(ま)」など、声というのは、その人の人柄もよくわかりますよね。
海外では、この5年くらいで音声プラットフォームの市場が急成長しています。特にSpotifyのような大手プラットフォームが参入したことで、音声コンテンツの流通量も視聴者数も、大幅に増えました。

同時通訳者。Art of Communication代表、大原美術館理事。ダライ・ラマ、テイラー・スウィフト、ビル・ゲイツ、デビッド・ベッカム、U2のBONO、オードリー・タン台湾IT担当大臣などの通訳を経験。「英語の壁を乗り越えて世界で活躍する日本人を一人でも増やすこと」をミッションに掲げ、英語コーチングやエグゼクティブコーチングも行う。著書に『不登校の女子高生が日本トップクラスの同時通訳者になれた理由』(KADOKAWA)、『新しい英語力の教室 同時通訳者が教える本当に使える英語術』(インプレス)。Voicy「田中慶子の夢を叶える英語術」を定期的に配信中。
田中 海外と日本で、音声配信市場の傾向に違いはありますか。
緒方 アメリカや中国では、経済や政治に関するコンテンツが一番、視聴されていますが、日本においては、1位がゴシップネタ、2位がスポーツです。
残念ながら、まだ日本では「理解して学びたい」というニーズが少なく、犬や猫のシーン、女の子が踊っている場面、といった動画コンテンツが圧倒的に強い。音声メディアでは、日本はradiko(ラジコ)やポッドキャストが伸びていますが、人気コンテンツはほぼ、お笑い、芸人のフリートークです。
それらはもちろんユニークなコンテンツではありますが、経済や政治、ビジネス、教養といったコンテンツは日本ではあまり聞かれていません。ある程度、リテラシーの高い人たちに向けたコンテンツは、日本では激烈に受けないんです。
特に音声のみのメディアは、「他人の話をじっくり最後まで聞ける人」しかユーザーになってくださらないので、最近、日本にもようやくその波がやっと来始めてはいますが、「時間つぶしで聞いたり、瞬発力で判断したりしている人」たちを取り込むことは、かなりの時間を要することになります。
田中 日本人は、けっこう向学心のある国民だと思っていたのですが(笑)。
緒方 政府の統計(令和3年社会生活基本調査)では、社会人の仕事以外の1日の平均学習時間は7分なんです。この数値は平均ではありますが、日本の社会人は世界でももっとも勉強しないと言われています(※)。
※パーソル総合研究所の調査では、勤務先以外での学習や自己啓発活動について、「特に何も行っていない」と回答した日本人の割合は46.3%で、14の国・地域で最も高い。参考: https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/apac_2019.html
「終身雇用」などの仕組みから、一度、就職してしまえばなかなかクビにはならないので、自身をアップデートすることに、お金や時間を使う人の数が少ないんですね。