「部下とのコミュニケーションがうまくいかない」「なんだかチームがワークしていない」「上司が何を考えているのかわからない」……あなたの職場はこんな悩みを抱えていないだろうか。今や多くの職場で“当たり前”となった1on1。ヤフーが実践してきたこの対話手法は、単なる業務報告や評価面談とは異なり、部下の成長を支援し、信頼関係を築くためのものだ。本稿では、2017年に発売されて以降、最も売れ続けている1on1の入門書『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔・著)から1on1についてよくある質問に対する一問一答の一部を抜粋・再編集して、1on1が持つ本当の意味と効果を解説し、成功するためのポイントを探る。

【あなたは言ってない?】ダメな職場でありがちな管理職の口癖・ワースト1Photo: Adobe Stock

Q 週に1回、30分を確保することができません。

 ある日、会社の方針として「部下一人につき、週に1回、30分の1on1を実施すること」が推奨されました。ですが、現実には会議や業務対応でスケジュールがびっしり。正直なところ、そんな時間を毎週ひねり出す余裕などありません。さらに、担当する部下が複数いる場合、それだけで毎週かなりの時間が取られてしまいます。「1on1の重要性は理解しているけれど、理想論では?」というのが、正直な本音です。

A あり得ない“マネジメント”がまかり通っているのでは?

 これは愚問です。部下の話を週に1回も聞けないのだとしたら、そういう組織構造がおかしい。

「時間がない」「忙しい」が口癖の管理職は多いです。

 同じような問題を抱えていたある会社の管理職に聞いたことがあります。「あなたの部下は何人ですか?」と。すると答えは30人でした。

 1人の上長に30人の部下がいて、適切なフィードバックをし、評価をし、エンゲージメントを高めることができるのでしょうか。離職者多発のこの時代に、こんなマネジメントはあり得ません。

 逆に、「部下の数は少ないけど自分の業務が大変なんです」と言う人がいたら、プレイヤーとしてのウエイトを下げるべきです。会社がそれを許さないとしたら、マネジメントに問題があると思います。

 1on1がうまくいかない理由の筆頭は「十分な時間がとれないから」です。でも、うまくいかなかったのは、本当に時間がとれなかったからなのでしょうか。時間がとれない理由を掘り下げて考えてみた、という話はあまり聞きません。

 繰り返しますが、上長が部下をちゃんと見ることができないようにさせている組織の問題でしょう。一方で、部下の数は適正なのに1on1ができないのだとしたら、時間の使い方や優先順位の問題です。部下のためにも、改善するよう心がけてください。

 ヤフーでは、1人の上長の下で働く部下の人数を、週1回程度の1on1ができるぐらいの人数にすることを目指していました。そうすると、おおよそ部下の数は6人から7人ぐらい。それ以上になると、1on1やコミュニケーションに支障が出ると判断したからです。

 1on1の頻度は最低でも2週間に1回ぐらいがベストである、というのが私の考えです。理想は毎週ですが、お互い都合が合わないときは飛ばすとして、平均的には2週間に1回ぐらいは時間を確保すべきです。

 なぜそれぐらい必要かというと、期間が空けば空くほど1on1が特別な場になり、自分の言いたいことを伝えきれなかったり、誤解や情報不足が起こったりするからです。

 ちなみにヤフーでは、3ヵ月に1回、社長と1on1をやっていました。ですが、3ヵ月に1回となると、この話をしておこうかと考えたり、なんだか自分の要望を伝えるような場に変わったりしてしまう。それでもやらないよりはましですが。

 やはりある程度の頻度を維持することで、要望を伝える場ではなく、日常的にカジュアルに話ができる場になっていくのです。

『増補改訂版 ヤフーの1on1』では、部下との対話に必要なコミュニケーション技法について体系的かつ実践的に学ぶことができます。

 参考:【だから部下が辞めていく】「部下とのコミュニケーションに自信がある上司」ほど管理職失格の理由、ワースト1

(本稿は、2017年に発売された『ヤフーの1on1』を改訂した『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。ヤフー株式会社(当時)は現在LINEヤフー株式会社に社名を変更しましたが、本文中では刊行当時の「ヤフー」表記としております)

本間浩輔(ほんま・こうすけ)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。