「部下とのコミュニケーションがうまくいかない」「なんだかチームがワークしていない」「上司が何を考えているのかわからない」……あなたの職場はこんな悩みを抱えていませんか? 今や多くの職場で“当たり前”となりました。ヤフーが実践してきたこの対話手法は、単なる業務報告や評価面談とは異なり、部下の成長を支援し、信頼関係を築くためのものです。本稿では、2017年に発売されて以降、最も売れ続けている1on1の入門書『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』(本間浩輔・著)から1on1についてよくある質問に対する一問一答の一部を抜粋・再編集して、1on1が持つ本当の意味と効果を解説し、成功するためのポイントを探ります。

【だから部下が辞めていく】「部下とのコミュニケーションに自信がある上司」ほど管理職失格の理由、ワースト1Photo: Adobe Stock

Q 部下とのコミュニケーションが毎日とれていれば、1on1は不要ではないでしょうか。

 ある日、会社の人事部から「全管理職は月に1回、部下と1on1を実施してください」との通達がありました。でも、わたしのチームではわざわざ業務時間内に1on1を行わなくても部下とのコミュニケーションに問題があるとは思いません。

A 「自分は部下とコミュニケーションがとれている」と信じ切っている上長には、管理職の資格がない

 本当に「部下と毎日コミュニケーションがとれている」のなら素晴らしいと思います。しかし部下は、そのコミュニケーションに満足しているでしょうか?

「自分は部下とコミュニケーションがとれている」と信じきっている上長には、はっきり言って管理職の資格がないと思います。

 こういった上長の部下に聞くと、「あの人は、私たちには関心がない」と言います。私が知る限り、ほとんどの場合がそうです。部下のことをどれほど知っているか、あらためて自問してみてください。

 このようなギャップの裏側にあるのは、部下の成長を支援することではなく、とにかく自分の成果のために部下が動けばいい、という上長側の本音でしょう。

「何のためのコミュニケーションなのか」ということを、もう一度考えてみましょう。上長の役割は、成果を上げてもらうことだし、そのためには部下のことを知らなければならない。

 それに、自分が言ったことが部下に正しく伝わっているかどうかを理解しなければならない。自分は十分に伝えたと思っていても、言ったことが正しく伝わっていないことは意外と多いものです。

「人が辞めていく」ことは昨今無視できない現象です。労働人口は、これからますます減少していきます。そうすると、人材獲得戦争が激しくなっていって、せっかく育てた人材がすぐに引き抜かれていく。そんな時代において、リテンションは経営課題になっています。

 かつては、部下を2人以上辞めさせた上長は昇進できない、という時代もありました。そこまでいかなくても、多くの職場では人が辞めていくことに対する危機感がなさすぎる、と私は思います。

 では、何が課題解決のカギを握っているのでしょうか?

 結局、退職を防ぐカギは上長との人間関係ですし、部下が成長できる環境をつくれるかどうかにあります。

 だから、きちんと部下のことを知り、そして上長側も知ってもらわなければいけない。

 そのために、1on1を通してコミュニケーションの場をつくることが重要だと考えています。

『増補改訂版 ヤフーの1on1』では、部下との対話に必要なコミュニケーション技法について体系的かつ実践的に学ぶことができます。

(本稿は、2017年に発売された『ヤフーの1on1』を改訂した『増補改訂版 ヤフーの1on1 部下の成長させるコミュニケーションの技法』の内容を一部抜粋・編集して作成した記事です。ヤフー株式会社(当時)は現在LINEヤフー株式会社に社名を変更しましたが、本文中では刊行当時の「ヤフー」表記としております)

本間浩輔(ほんま・こうすけ)
・パーソル総合研究所取締役会長
・朝日新聞社取締役(社外)
・環太平洋大学教授 ほか
1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、野村総合研究所に入社。2000年スポーツナビの創業に参画。同社がヤフーに傘下入りしたあと、人事担当執行役員、取締役常務執行役員(コーポレート管掌)、Zホールディングス執行役員、Zホールディングスシニアアドバイザーを経て、2024年4月に独立。企業の人材育成や1on1の導入指導に携わる。立教大学大学院経営学専攻リーダーシップ開発コース客員教授、公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル代表理事。神戸大学MBA、筑波大学大学院教育学専修(カウンセリング専攻)、同大学院体育学研究科(体育方法学)修了。著書に『1on1ミーティング 「対話の質」が組織の強さを決める』(吉澤幸太氏との共著、ダイヤモンド社)、『会社の中はジレンマだらけ 現場マネジャー「決断」のトレーニング』(中原淳・立教大学教授との共著、光文社新書)、『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)がある。