西編成局長の説明によると、「パンダ絵本館」は、母親パンダが子パンダに語るという体裁をとった教育アニメで、世界各地の童話を紹介していく、テレビ上方制作のシリーズ作品だという。
こうして私の初プロデュース番組「パンダ絵本館」の制作がスタートしたわけだが、早々にトラブルが起こる。
アニメ制作会社の岡本社長が突然、テレビ上方を訪れてきた。会議室で、西編成局長とともに彼と向き合う。
「じつはうちの会社の資金繰りが厳しいのです。現状だと先行する支払いができず、アニメ制作に取りかかれません。とりあえず『番組制作契約書』を締結していただければ、銀行からの融資が下りるのでなんとかなります」
「パンダ絵本館」の制作については社内の合意を得ているとはいえ、制作会社と正式な契約を結ぶには、社内各所の承認が必要になる。いきなり今日この場で契約を締結し、押印するなんて無理に決まっている。
「御社との契約締結については、役員局長会の承認確認後、稟議(りんぎ)を回して、局長、取締役、常務、副社長、社長、会長、そして最後に監査役の承認が必要なので時間がかかります」
西編成局長が冷静に説明する。
「一刻を争う事態なんです。そこをなんとか特例でお願いできないでしょうか」
岡本社長は血走った目で頭を下げ続ける。岡本社長の話を聞いているうちに、プロデューサーとしてなんとか事態を解決しなければと思った。
ちょうどそのとき、同じフロアにある業務本部長室から、常務取締役業務本部長が顔を出した。番組制作における決裁権を持つのはこの本部長だった。
私は本部長のもとに駆け寄った。
「今日、『パンダ絵本館』の契約書に押印しないとたいへんなことになるのです。こんなお願いをして申し訳ありませんが、なんとか押印していただけないでしょうか」
「突然そんなことを言われても手続きを経ないと押印できないのは常識でわかるだろう」
番組プロデューサーといえど、私は入社1年足らず。本部長と話をするのはこのときが初めてだった。それでも未熟さゆえ、怖いもの知らずの勢いがあった。