「最終的には契約するものなのですから、今日押印だけいただければいいのです。なんとかお願いします」
本部長は打ち合わせの時間が迫っているらしく、しびれを切らしたようだった。
「うるさい。俺はもう出かけないといけないんだ。とにかくそこをどけ」
同じフロアで岡本社長が様子を見ていると思うと、もうあとに引けなくなった。

「いえ、押印してもらうまでどきません」
前に立ちふさがった私に本部長が呆れたように言う。
「おまえは本当に無礼者だな。それなら勝手にハンコをついとけ」
踵(きびす)を返して部屋に戻り、「常務取締役印」を取ってきた本部長はそれを私に放り投げた。後発の弱小局だからこそで、ふつうのテレビ局なら論外の話だったろう。
シリーズ契約で約1億2000万円(*)。契約書に書かれた金額と、今まで見たことのないサイズの印鑑に空恐ろしくなったが、あとの祭りだ。私は半ば強引にもらった印鑑を押印した契約書を岡本社長に手渡した。
番組終了時、テロップで流れるクレジットは、著作権を保有する場合は「製作」、単に作っているだけで著作権を保有しない場合は「制作」と表記するのだと教わった。
在阪他局の社員数はおおむね700~800名だったのに対し、この当時のテレビ上方は100名ほどの社員しかいなかった。慢性的人手不足のため、女性アナウンサーが映画の概要記事の作成を請け負ったりもしていた。また、他局ではそれぞれ個別に担当社員が複数名いるような「著作権」「謝金(ギャラ)」についても編成部兼務で私ひとりで担当していた時期があった。
当時、アニメ番組だと1本あたりの制作費が最低800万円は必要といわれていた。そんな中、海外向けに販売するディストリビューターがお金を出すことで、シリーズとして格安で仕上げられるというのもこの企画の売りになっていた。