スパイダー製作にあたって、オープン化や補強(Bピラーとロールバーの間にアルミニウムの連結材を挿入など)といったボディ構造の変更以外にマラネッロの開発陣が手をつけた部分は少なかったという。シャシーセッティングもスムーズに決まった。すでにこのプラットフォーム世代となって3モデル目(F12、812、ドーディチ・チリンドリ)である。いずれもクーペとスパイダーのセットだったから、2021年に始まったドーディチ・チリンドリの開発および設計に反映される知見が大いに存在したということだろう。ちなみに重量増を抑えることは最重要課題だった。スパイダーはクーペ比で+60kg、先代に当たる812GTSからは+35kgという数値に収まった。
スパイダーはつねに極上のV12の存在を感じる絶品のブレーキ。
だからアクセルを踏むのが楽しい
国際試乗会はリスボン郊外のオーシャンリゾートで開催された。試乗車はヴェルデ・トスカーナという落ち着いたグリーンにテッラ・アンティカというブラウンのレザーインテリアを組み合わせたスペシャルな1台。その日は朝から雲ひとつない快晴で、やや肌寒かったがオープンエアを楽しむには絶好の気候と ロケーションである。乗り込んでV12エンジンに火を入れ、ためらうことなくルーフを開けた。
青空が見えるまでおよそ14秒。ちなみに走行中でも時速45km/h以下であれば開閉可能だ。クローズド状態ではおとなしく聞こえていたV12ノートは、ルーフを開けるとはっきりとした輪郭をもって耳に届くようになる。サウンド好きには他にもお勧めの乗り方がある。いわゆるカリフォルニアモードだ。ルーフクローズドのままリアの垂直ガラスをおろして、エグゾーストサウンドを直接聴くという乗り方である。今回も個人的にはこの乗り方が最も気に入った。自分で買うのであればオープンにする機会は滅多になくとも、カリフォルニアモード(本来は風通し向上)にできるからスパイダーを選ぶ。