社員視点で見ると、「定年までは給与が上がるのでよいけれど、再雇用になったとたんに同じ仕事なのに給与が3割減なんてモチベーションが下がるなぁ……」というところでしょうか。
「同じ仕事なのに……」という点では、正社員と同じ仕事をしているパートタイマーや派遣の人も同様です。「同一職務同一賃金」という原則があります。これは、同じ企業・団体内において、正社員と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)との間の不合理な待遇差を禁止するものです。
雇用長期化を見据えると
ジョブ型導入が有力な選択肢
同一労働同一賃金の原則は、定年後再雇用で正社員から契約社員、嘱託社員などの有期雇用になる場合にも適用されます。
文字面からすると、同じ仕事であれば全く同じ給与でなくてはならないように見えますが、定年後再雇用で処遇を見直すこと自体に問題があるわけではなく、「不合理」な待遇差があってはならないということです。
どの程度であれば不合理なのかというと、同じ仕事なのに定年後再雇用者の基本給と賞与が定年前の6割を下回るのは不合理な待遇格差に当たるという名古屋地裁・高裁の判例がありますが、最高裁は判断を覆し、高裁に差戻しています(名古屋自動車学校事件)。
減額幅がいくらまでというより、その格差を合理的に説明できるかどうかが論点だということのようです。

藤井 薫 著
中長期トレンドとして労働力不足は確定的だとはいうものの、70歳までの雇用延長については、企業側からすると「気が進まないが対応せざるをえない」という側面がなくもありません。
つまり、「役に立つシニアの雇用延長は歓迎だが、全員対象は荷が重い。せめて、給与を仕事に見合ったかたちにしたい」ということなのです。
正社員から定年後再雇用へ、さらにはパートタイムや派遣労働者も含めて、雇用区分の違いを超えてシームレスに合理的にとなると、そもそも正社員の給与が「仕事」で説明できるようになっている必要があるというのが、1つの答えです。
雇用長期化を見据えると、正社員へのジョブ型・職務給導入が有力な選択肢になります。