このような壁を自らつくってしまうと、本人だけでなく周囲に迷惑を及ぼしかねません。仕事で「能力が低いのに自己評価が高い」という勘違いをする人間も、その一種と言えるかもしれません。

『バカの壁』では、価値観そのものを一元論(正しいことは1つしかない、という思い込み)から多元論(正しいことはいくつもありうる)に変えなくてはいけないと結論づけられています。

 とはいえ人間の価値観の問題となると、難しい点もあります。誰かの価値観を変えることは簡単ではないからです。

 ただしこれが「ダニング=クルーガー効果」によるものであれば、変えられるかもしれません。「バカの山」に登っている人は自分で気づいていませんが、時間が経つことで理解できる可能性があるからです。

若手の問題社員も
時が経てば化けるかも?

 こうした心理を理解して、相手の自己判断が変わるのを待つことは有効です。

 もちろん、そこにかかる時間は人によって異なりますから、ある程度、忍耐も必要でしょう。

 重要なのは「根本的な価値観の問題」なのか、それとも「一時的な自己判断の誤り」なのかを見抜くことです。

 自分と他者との位置関係を客観的な視点で見極めるのは難しいものです。私たちがしばしば「バカの山」に登ってしまうのも仕方がないのでしょう。

書影『世界は行動経済学でできている』『世界は行動経済学でできている』(アスコム)
橋本之克 著

 しかし、そこで自らが「ダニング=クルーガー効果」に影響されている可能性をふまえて、できる限り冷静に自己を見つめることは重要です。そこから真の自分の強みを見つけることもできるはずです。

 また誰もが、うまくいかなくて自信をなくしたり、自分を見失ってしまったりすることもあります。そんなときは、先ほどの「曲線」で自分が今どの段階にいるのかを分析するのもいいでしょう。

「絶望の谷」にいると思うなら、もう「バカの山」はクリアしているのですから、あとは継続しながら少しずつ、確実に上に登って行くだけだと思えれば、自信につながります。

 人間の心理的バイアスを知ることは、他人を理解することはもちろん、自省や自己のさらなる成長にもつながるのです。