私は児童の精神科医ですから、臨床で成人の方と接することは少ないのですが、成人をいつも診ている友人の精神科医に話をきくと、ほぼ全員が、近年鬱病が非常に増えていること、また社会不安障害といわれるものが増えていることを指摘します。

 こうした病気のきっかけはひとつではありませんが、人間関係によるストレスが大きな原因であることははっきりしています。

 同じ集団のなかにいても、その集団にうまく適応できない、特定の人とうまく交われない、といったことが非常に強いストレスとなって、病気になってしまうことがとても多いのです。

 こんな話をしょっちゅう耳にするにつけ、私は自分が長年専門領域としてきた乳幼児から思春期までの子どもたちについて、ずっと思いをめぐらしてきました。

よちよち歩きの赤ちゃんと
“浮気性の男たち”の共通点とは?

はいはいを始めたばかりの
赤ちゃんは、
いつも見守られながら
冒険している

 思い返したのは、マーガレット・マーラー(1897~1985年)という心理学者の研究です。彼女は実に緻密に詳細に、乳幼児を、とくに乳児を観察した研究者です。その彼女がこんなことを言っています。

「生後6カ月から2歳ぐらいの子どもは、自分で移動できるようになって喜びでいっぱいで、あちこちへ這っていきたい、よちよち歩き回りたいという気持ちを持っています。こうした子どもの様子は、まるで奥さんのいない世界で浮気を楽しもうとする男たちのようだ」

 実に面白い表現だと思いませんか?英語では「love affair in the world without wife」と書いている。

 奥さんの留守にちょっとだけ楽しみたい、けれども遊びが終われば家に帰れるわけです。心配事があったらちょっと家のほうを振り返り、遊んでいて何か都合が悪いことがあったら家に飛んで帰ってくる。

 男性の浮気と赤ちゃんのはいはいは、「同じようなものだ」と言うんですね。