要するに自由に動いて外の世界を楽しみたいけれど、奥さんやお母さんに見放されては大変だ、という感じ。結局、甘えているんですね。それが生後6カ月から2歳ぐらいまでの子どもの行動の基本なのです。逆にいえば、男の浮気がどれほど子どもじみたものか、ということにもなりますが。

 さて、いまお話しするのは男の浮気のほうではなくて、赤ちゃんのほうです。

 こうした時期の赤ちゃんの行動は、あたり前ですがやっぱり身勝手なものです。親の思う通りにはなりません。

 その「勝手な赤ちゃん」の行動を、いとおしく思いながら、じっと見守っている母親の存在は、常に赤ちゃんに大きな安心感を与えているのです。

 振り返ったときにお母さんか、あるいはお母さんに代わる人がいなかったときに、赤ちゃんは非常に強い不安を感じます。マーラーは、この子どもの感情を「見捨てられ不安」(abandonment anxiety)と呼びました。「見捨てられ抑鬱」(abandonment depression)というさらに踏み込んだ言葉も使っています。

 マーラーは非常に優れた観察眼を持った研究者です。よちよち歩きをする赤ちゃんのなかに、ある特有の感情を読み取ったのですね。

乳幼児期の「見捨てられ不安」は
大人の鬱病につながる?

振り返れば必ずママがいる、
という安心感ほど
大きいものはありません

 好き勝手なことをしながらも「振り返れば必ず自分を見守っている人がいる」という育て方をされた子どもと、逆に「振り返ったときに見守っている人がいないことが多い」環境で育った子どもは、その後の発達に大きな違いが見られるといいます。

 マーラーは「love affair in the world without wife」という小さな赤ちゃんの楽しみを、上手に許容し、受容してやることによって、子どもは「見捨てられ不安」「見捨てられ抑鬱」といった感情を残さずに、成長していくことができると言っています。

 乳幼児期にこうした「見捨てられ不安」が強い場合、青年期、成人期に、鬱病や社会不安障害、あるいは新型鬱と呼ばれるようなものを発症する原因のひとつになっているのではないか、と私は経験上推測しています。