乳幼児期は「生き方の基礎」が
育つ重要な時期

「おしゃべりできる」ことが
「コミュニケーション力」
ではありません

 核家族化が進んだことなどで家族をとりまく環境は変わりました。また地域社会も都市部のみならず変化しています。教育現場の指針や雇用制度をはじめとして、働き方も変わりつつあります。

 こうしたなかで、大人も子どもも「人間関係」にストレスをかかえる人が増え、社会のなかで人と交わりつつ生きていくことがむずかしい、という人が増えているのです。

 社会のなかで人と交わる力というのは、実は乳児のときから育っていきます。乳幼児期というのは、人間にとってほんとうにたいせつなたいせつな時期です。

 この時期に育つさまざまな心身の力が、大きくなってからの生活、生き方の基礎になっていくからです。

 その力とは、歩けるようになった、背が伸び体重が増えた、言葉をしゃべれるようになった、という目に見えるものばかりではありません。赤ちゃんの心もまた育っています。

 なかでもとても重要なのが社会性です。社会性というのは、ひとことで言うなら社会のなかでお互いにコミュニケーションをし合う力、人間関係をつくり育てていく力のことです。

書影『子育てのきほん』『子育てのきほん』(ポプラ社)
佐々木正美 著

 コミュニケーションとは、会話ができればいいという意味ではありません。

 ニュースなどで聞くようになった振り込め詐欺師は、とても「会話」が達者です。けれどそこに人間的なコミュニケーションはかけらもない。

 ほんとうの人間的なコミュニケーションというのは、お互いの喜びを分かち合う力です。喜びを分かち合える力とは、同時に悲しみを分かち合える力です。悲しみを分かち合うこととは、言ってみれば「思いやり」ということになります。

 社会のなかで、人といきいきと交わりながら生きていく力を、子どものころからどう成熟させていくか、というのはなによりも重要なことだと思います。