事例2:カウンセラーの学歴をしつこく聞く“困った人”
電話相談のリピーターで、我々カウンセラー間で情報共有していた「困った人」が十数名いました。匿名で電話をかけてくる相談者の中から、会社名や相談内容、声の特徴などにより、複数のカウンセラーが担当した「困った人」が同一人物かどうかはおおむね判別できていました。
その中でも特に悩まされていた、Aさんという大手企業勤務の男性がいました。Aさんは通話の冒頭から、私の年齢、出身大学、大学院、論文のテーマなど質問攻めをしてきます。こちらが電話相談システムの規則として個人情報を開示できないことを何度説明しても、「自分より頭が良くない人に相談することになるかもしれない。どうしてくれるんだ」というロジックで20分ほど費やすのが常でした。
やっと本題の相談が始まったかと思えば、主訴(メインの相談内容)はAさんの上司を始めとする社員たちの「愚かさ」について、独特のエピソードを交えて延々と話すのでした。そのうち、矛先がこちらに向いてきて「メモできますか?」などと言って数学や物理の問題を出し、「答えは何だと思います?私の部下は、こんな高校で習うような簡単な問題も解けないんですよ。まさかカウンセラーさんは解けますよね?」という具合なのです。
当時、未熟だった私は、怒鳴り声やしつこさに屈して数式を解いたりもしましたが、間違えると「それでよくカウンセラーの資格取れましたね」「だから文系と話すのって嫌なんですよ」などと言われました。今思えば、これは明らかにクライアントに巻き込まれていた状態でした。
そのうちAさんは私の担当曜日と時間帯を把握し、私がいる時間にのみ電話をかけてくるようになりました。さらに「そちらの会社に伺えばあなたにお会いできますよね」など、意図的に不安にさせるような発言もするようになりました。この頃には、電話に出ること自体が恐怖となり、仕事に支障が出ている状態でした。
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ここまでくると、「顧客」という優位な立場を利用した「いじめ」とも言えるでしょう。カウンセリングの本題に関係ない話をするばかりか、受け手側に理不尽な要求をすることで精神的ダメージを与えるこうした行為は、明らかにカスハラの部類に属します。