カスハラが発生するメカニズム
Aさんの言動がカスハラ化していった背景についても考えてみましょう。
現在は企業などを対象にカスハラ対策の研修を行っている筆者ですが、当時の対応を振り返ると、私自身も顧客を「カスハラ化」させていた側面があることを認識しています。クレーム対応で最も重要なのは、初期対応で顧客の不快感情をいかに沈静化させるかということです。
特に電話カウンセリングでは、利用者はすでに何らかのネガティブな感情を抱え、カウンセラーに共感や適切なアドバイスを求めています。顧客の期待通りにならなければ、行き場のなくなったネガティブな感情はカウンセラーに向けて発散されることになります。
また、自信のない対応や受ける必要のない要求に応じることは、顧客をサディスティック(加虐的)にさせる要因となります。顧客をサディスティックにさせてしまいがちな行動には、「言葉が出てこない」「ゆっくりと呼吸ができない」「黙り込んでしまう」「下を向いてしまう」などがあります。電話対応でも、このような不安の雰囲気は相手に伝わると考えるべきでしょう。
対応策:クレームをカスハラに発展させないために
今回紹介した事例だけでは、クレームとカスハラの境界を完全には明確にできないかもしれません。しかし、官公庁や自治体、企業が定義するハラスメントやさまざまな事例から考えると、クレームとは顧客の要求行為に不満や不服、難色などネガティブな感情が加わったもので、一応妥当な範囲にとどまるものと言えるでしょう。この不快な感情を適切に取り除くことができれば、カスハラに発展せずに済む可能性が高まります。
クレーム対応の基準は企業や自治体によって異なる場合もありますが、その区別の基準は組織内で共有する必要があります。一定レベルを超えた場合に「カスハラ」と判断して毅然と対応する組織もあれば、「お客様が納得いくまで対応する」という基準を設けている組織もあります。業種や企業文化の違いにより、カスハラ対応の判断基準に差異が生じるのは避けられません。
筆者が経験したカスハラ(事例2)について上司に相談した際、「もっと共感して聴く姿勢を出せば相手は分かってくれると思う」というアドバイスを受けましたが、結果的にはうまくいかず、むしろ精神的ダメージが深刻化しただけでした。