蘭子×豪の“出征前夜の求婚劇”が尊すぎた夜〈豪役・細田佳央太コメント付き〉【あんぱん第29回レビュー】

「心に思ちゅうことを伝えんがは
思うちゃあせんのとおんなじことやき」

 壮行会の前に、のぶは「心に思ちゅうことを伝えんがは思うちゃあせんのとおんなじことやき」

 ちゃんと言葉にするように蘭子にこう言って勧めていた。主人公としての面目躍如。のぶもいま、学校で思ったことが言えず苦しんでいるからこそ、こんなふうに思うのだろう。

 また、壮行会時の屋村の言葉も響いたのかもしれない。いつ、死んでもおかしくない状況を、お国のためだからと受け入れてしまっていたであろうふたりは、屋村の言葉ではたと目が覚めたのかもしれない。

 羽多子(江口のりこ)も追いかけてきて、「今夜はもんてこんでええ」と着替えを渡す。

 ふたりきりの時間を持つように後押しされた豪と蘭子は手をつなぎ列車に乗って出かけていく。

「花嫁衣装も用意しちゃれんでごめんね」という羽多子の言葉から、このふたりの時間が特別なものだと感じる。

 豪役の細田佳央太は、羽多子に背中を押されたシーンについてこのように語っている。

「羽多子(江口のりこ)さんから『豪ちゃん、蘭子をよろしゅうお願いします』というセリフを受けますが、そこで初めて朝田家の家族の一員になれた気がして、こみ上げてくる感情がありましたね。戦争もありますし、物語の中でそれぞれの苦難もたくさん描かれていますが、その中でこのシーンが輝いて見えていればいいなと思います」

 ほんとうに輝いて見えた。抑圧された環境だからこそ、よけいにふたりの愛情がかけがえのない美しいものに見えるのだろう。

 原豪役の細田佳央太は、第28回で言われたように澄んだ瞳で、真面目な好青年を演じている。

 現在Netflixで人気の『新幹線大爆破』では、草彅剛演じる車掌の後輩で車掌・藤井役として新幹線のピンチに奮闘している。この役もまた仕事に誠実に取り組む好青年である。