アンコールのそのとき

 この日の出演者が、全員登壇し、それぞれ、中森明菜への思いや感想を述べた。会場内の“誰か”を探すように、ナビゲート役のミッツ・マングローブの目が泳いだ。すると、上手側のバルコニー席にスポットライトが! ゆるいウエーブのかかった肩までの黒髪、水色のふんわりニットを着た中森明菜がそこにはいた。

 全く予期していなかった本物の中森明菜を目の前にして、驚いたというより、体が数センチ持ち上がったと錯覚するくらいの衝撃だった。中森明菜が纏う水色のニットがスポットライトでキラキラと光って、妖精が降臨したみたいだった。

 当然、会場は地響きのようにどよめき、歓声が湧いた。バルコニー席の中森明菜に向かって、ミッツ・マングローブがトリビュートコンサートの感想を聞くと、ゲストの歌唱が素晴らしかったために「反省しまくりです……」と、消え入りそうな声で話した。明菜流のちょっぴり自虐的なお茶目な返しで、トリビュートしてくれた出演アーティストたちを称えたのだろう。客席に向けて両手で投げキスを2回、近くの席のファンには握手をしたり、まさかのビッグサプライズだった。

 バルコニー席から降りてきて、舞台に上がってくれないか……と思ったが、それはかなわず。しかし、自身がステージに上がらなかったのは、トリビュートしてくれたアーティストたちが“主役”と中森明菜は考えたのではないかと感じた。

 中森明菜の楽曲をリスペクトして集まったアーティストたちと、中森明菜を愛するファンが、まさにアルバムタイトル「明響」通り、明菜とともに響き合った素敵なデビュー記念日だった。

(AERA編集部・太田裕子)

AERA DIGITALより転載