第13代当主が父から学んだ
「とらわれない」という教え

 いずれの事例でも、古代の伝統を現代に再現するプロデューサー機能を、いかんなく発揮している。中川政七商店は、このようなさまざまな取り組みを通じて、地域経済圏における地産地消型から、集客型への「離」陸を演出しているのである。

「社長の代替わりの時に、珍しく父に誘われて一対一でご飯を食べに行ったのですが、その時に『とらわれるな』と言われたんです。『おまえは麻にとらわれている』と。『うちはたまたま300年、麻を扱い続けているけど、麻以外のものを扱った時代もあった。だから、麻にとらわれるな』と。そう聞いて、なるほどと思いました。明文化されていませんが、ある意味これが中川家の家訓なんだと。」

 この「とらわれない」という教えを、中川氏は父の言葉として噛みしめ、自社の歴史を読み解くことを通じて深く理解し、未来へと投影していった。

 中川氏が入社した2002年からの20年間で、同社の売上は17倍に成長した。しかし、工芸を元気にするという第三の創業においては、「まだ1合目」と、中川氏は語る。

 創業300年を超えてなお、シン日本流によって若返り続ける中川政七商店。これからの10X(10倍)の進化が楽しみである。