2022年に自死した人のうち、理由の1つとして奨学金の返還を苦にしたと考えられる人が10人いたことが報じられた。自死した人の統計の見直しによって、「奨学金返還」の項目が加わったことで明らかになったという。今までは調査項目の中になかったのだから、奨学金返済を苦に自死した人の数は、実際は相当数いたのだろう。
奨学金の返済が
生活や人生に与える影響
一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事の稲葉剛氏の「生活に重くのしかかる奨学金返済『生きていくのがつらい』」(「毎日新聞」政治プレミア、2023年3月19日)によれば、奨学金の返済により、生活が圧迫されるだけでなく、人生の選択に影響を受けていることがわかる。
「結婚」(37.5%)、「出産」(31.1%)、「子育て」(31.8%)、「持ち家取得」(32.8%)への影響を認めた人も、それぞれ全体の3分の1程度を占めた。
深刻なのは、長期的な生活設計だけでなく、若者たちが現在の健康を維持することにも影響が出ていると見られることだ。
大学の進学率は過去最高を記録し、今や半数が進学する時代だ。さらに高等教育全般の進学率は8割にのぼる(注3)。高卒と大卒では応募できる求人の種類も違うし、初任給も違う。データで見れば生涯賃金にも数千万単位の差が出る。そういった状況を鑑みれば、将来の経済的安定を考え大学進学を目指すのは自然なことだろう。
しかし、授業料は高騰し続け、今や国公立大学でも多額の費用がかかる。
2020年度の独立行政法人日本学生支援機構の調査(注4)によれば、何らかの奨学金を受給している人の割合は49.6%(大学・昼間部)と5割近くにのぼる。