まさに、自分の興味のあるコトやモノ、体験のみで生活を構成する「選択と集中」的な消費動向の表れを、調査の結果は示している。
「選択と集中」の「推し活」で
アイデンティティを保つ人々
今、資本集中型消費を説明する際に、「推し」という言葉を用いた。ここ数年ですっかりお馴染みの言葉になった「推し活」は、「資本集中型消費」と相性がよい。
そして、それは典型的に「選択と集中」の産物でもある。これは、2021年に新語・流行語大賞にノミネートされた言葉で、自身がハマる人やモノについて、それに深く関わり、周囲にその良さを広めていく(推す)消費のあり方を表している。
「推し活」では、特定の「推し」に対して多額のお金や時間を消費していく。まさに「選択と集中」をしていくのだ。
しかし、「推し活」の文脈でそれ以上に重要なのは、それを「推す」ことによって、それを推す個人が何者なのか、というアイデンティティ(その人らしさ)までもが担保されることだ。そもそも、「推し」という言葉は(「推薦」という言葉があるように)、周囲の人にそれを薦める、という意味がある。
ただ個人がそれを好きなだけでなく、他者とのコミュニケーションにまで影響を及ぼすのが「推し活」で、「それを推している自分」が他人から見た「○○さんらしさ」になる、というメカニズムを持つ。
何を推すのかという「選択と集中」によって、「その人らしさ」、もっといえばその人を作る「世界観」を生み出すのだ。その意味で、やや比喩的な表現にはなるものの、「推し」というのは、その人の世界観を作り出す「テーマパーク」的な働きを生み出しているともいえるのだ。
人生のバランスを崩す
「ホス狂」の人々の「選択と集中」
一方、こうした過度な「見られている」社会において、個人が「選択と集中によるテーマパーク化」を進めていくことは、もちろん弊害も生み出す。
ライターの佐々木チワワは、歌舞伎町界隈に生きる人々への取材を通じ、現代の消費社会の姿を切り取っている。中でも、「ホス狂」と呼ばれる、ホストクラブに通い続ける女性については、精力的に取材を続けている。
「ホス狂」たちは、「推し」のホストに対して、連続して指名するだけでなく、シャンパンを入れる、あるいは同伴を行うなどして、月に何百万というお金を貢ぐこともあるという。まさに「資本集中型消費」を行うのだ。
しかし、その一方で、自身の払える能力を大幅に上回った額の消費をした結果、風俗店で働かざるを得なくなるなどの問題も多く起こっているという。